飯島 章(2016年度選科B/社会人)
講義モジュール6「多様な立場の理解」の最初の講義では、長年にわたり理工系出版社で自然科学書の編集に携わってこられた平祐幸先生から「自然科学書出版と理系編集者の役割~良質な自然科学書をつくるための編集作法~」というテーマでお話をいただきました。
理系編集者とは何か
文芸書を編集する文系編集者と自然科学書を編集する理系編集者は、出版物をつくるという意味では同じですが、その役割は大きく異なります。自然科学書は特殊な専門分野の内容を扱うだけでなく、図面や数式が多いという特徴があります。また書き手が大学の研究者や科学者であり、文章のプロではない点が理系と文系の編集者の在り方を分ける要因になっています。理系編集者には著者の原稿を吟味・精査する科学的な知識とセンスが求められ、科学的にミスがなくわかりやすい自然科学書を世に送り出すことが理系編集者の存在意義となっています。
自然科学書の役割
理系編集者により出版される自然科学書にはいくつかの役割があります。まずは科学を志す学生に体系化された正しい知識を伝える教科書としての役割、次に科学の進歩を的確にとらえ専門家や学際領域の方々に科学の現状を広める役割、さらには科学的な教養やその価値を一般の人々に広く伝える役割です。科学は日々進歩していますが、正しい情報や知識を記述し、広く伝える自然科学書によって科学の進歩は支えられています。
理系編集者の仕事
自然科学書はどのようにしてつくられるのでしょうか。まずは企画の段階で誰にどのような情報を提供するかを考えます。次に著者を決定し原稿を依頼します。その後、原稿を入手することになりますが、良書を生み出すために理系編集者はここからが勝負になります。著者から頂戴した原稿を真心を込めて批判的に読み、読み手の目線に沿って書き直しを提案していきます。このような仕事が、正しい科学知識をわかりやすく伝えることにつながるのです。また仕事を円滑に進めるには、著者に寄り添い日頃から信頼関係を築いていくことも大切です。ゆえにコミュニケーション能力が重要となってきます。
理系編集者のこれから
科学が発展する中で自然科学書の重要性は高まり、理系編集者の働く場はますます増えています。今後も科学と社会の橋渡しをする存在として重要な役割を果たすことになるでしょう。このような時代であるからこそ、科学者に本を書くことの意義を訴えながら優れた著者を掘り起こし、翻訳本に負けない自前の自然科学書をしていくべきではないでしょうか。そしてそれを世界に発信していくのです。
落ち着いた語り口の中に理系編集者としての強い意志を感じる素晴らしい講義でした。平先生、どうもありがとうございました。