実践+発信

92サイエンスカフェ札幌「極北に針路をとれ北極海航路が拓く新時代~」を開催しました

2017.1.6

2016年12月11日(日)、第92回サイエンス・カフェ札幌「極北に針路をとれ ~北極海航路が拓く新時代~」を開催しました。ゲストは、北海道大学北極域研究センター教授の大塚夏彦さん。北極域研究センターは、北極域の持続可能な活用と保全を目的として2015年4月に設立された研究室です。ここ数年、「北極域」「北極海航路」といったキーワードをニュースなどで耳にする機会が増えてきましたが、北極とはどんなところなのでしょうか。そして遠い北極が、私達日本人とどう関係してくるのでしょうか。大塚さんに語っていただきました。

2016年7月に北極域研究センターに着任された大塚さんですが、それまでは民間企業に所属し、港の計画・設計の傍ら、氷海域の利用や北極海の航路開拓の研究に尽力してこられました。長年の実務経験をベースに、現在は研究だけでなく、北極域利用の足がかりをつくるためのコーディネーターとしての役割も担っていらっしゃいます。

この日の札幌はあいにくの吹雪でしたが、58名もの方が紀伊國屋書店まで足を運んでくださいました。北極域への関心の高まりの現れでしょうか(アンケートで約60%が「北極域や北極海航路に興味があった」と回答)。ちょうどこの日は4日後にロシアのプーチン大統領の来日を控え、北方領土問題や資源開発競争に関しての報道が増えていたタイミングでもありました。

(永久凍土から出土したマンモスの牙を加工した工芸品)

北極ってどんなところ?

北緯66度33分以北の地域を「北極圏」、北極圏とその周辺地域を「北極域」と呼びます(図1参照)。北極域には、ロシア連邦、フィンランド共和国、グリーンランドといった日本とも国交のある国々が含まれます。北極点は海の上ですが、「北極域」には人々の生活があるのです。ですが、そこはカフェ会場のある札幌よりももっとずっと北の土地。“気温がマイナス60℃を下回ると働いてはいけない規則“や”永久凍土からマンモスを発掘するビジネスがある“といった北極あるあるに、会場からは笑いとため息が漏れました。

(図1.北極域の定義と主な航路)

北極域は地球温暖化の影響を強く受ける

温暖化の影響で北極の海氷が融けていることは周知の事実ですが、私達が想像するよりはるかに多くの問題が北極域で起きていました。たとえば、気温が上昇すると海の上の氷だけでなく、氷河も融けます。それにより海に流入する淡水の量が増え、海の塩分濃度と水温が低下し、海水に溶ける二酸化炭素の量が増加して海が酸性化する(中性に近づく)ことで、甲殻類が殻を作りづらい環境になってしまいます。海や河だけではありません。永久凍土の融解もすすみ、それまで氷に閉ざされていた有機物が腐敗してメタンガスを放出して温暖化を加速させる、といった悪循環もうまれているのです。

転んでもただでは起きない

温暖化の悪影響が問題となる一方で、新たなチャンスも生まれました。海氷が減少したことで、夏の間は砕氷船でなくとも北極海を航行できるようになったのです。この「北極海航路」は、日本やアジアと欧州を結ぶ新たな航路として世界から注目を浴びています。従来の航路(南シナ海やスエズ運河等を通る「南回りルート」)よりも、運航コストを大幅に削減できる可能性があるためです(図1参照)。

ですが、北極海航路を安全に航行するためには、氷の厚さや海流のパターン、海底地形、海氷が船体におよぼす影響などについての情報が必要です。大塚さんの所属する北極域研究センターでは、北極海での観測や実験、衛星データ解析や予測モデリングを行なっています。ゆくゆくは、北極航路を安全に航行するための支援システムを作成したい、と語ってくださいました。