中島 遥香(2016年度 選科A/学生)
アイデアを考えようと思っても良いアイデアはなかなか出てきません。新しいアイデアを出しているつもりが、似たようなアイデアばかりになってしまう、そんな状況を打破するにはどうすれば良いのでしょうか。企画を作ることから組織の中で実現するまでの秘訣を、∞プチプチなど50点以上のおもちゃを開発された高橋晋平先生(株式会社ウサギ 代表取締役)にお話いただきました。
高橋先生は「おもちゃで人を笑わせたい」という夢のもと、株式会社バンダイに入社し、当時、収益の多くを占めていたアニメのグッズではなく、ジョークグッズの開発をされました。開発するにあたり、たくさんのボツネタが生まれます。通る企画というのは、以前ヒットしたものを踏襲するか、自分で考えてたくさんボツになった結果生まれるもののどちらかだといい、自分が求めるものを追う方が幸せだと感じた高橋先生は、後者の道を選びました。
●人間の欲と向き合うこと
今までの体験、経験というのは、面白かったこと、面白くないこと含めて、全てアイデアの材料であるといいます。ここでいう「面白い」は良い感情全てを指し、「面白くない」は不便、不安なこと、もうやりたくない嫌なことなどを含みます。面白いことは拡大して提供し、面白くないことは解決するようにアイデアを考えます。
この時、建前で考えるのではなく、人間の欲と向き合うことが重要です。何が面白いのか、何をやりたいのか、本能に訴えかけて人の心を掴まえます。例えば、∞プチプチは思わず指で潰したくなってしまう人の本能を捉えたことで大ヒットしました。
●経験を元に考える
具体的にアイデアを広げていく際は、以下の3つのステップで考えていきます。
①面白い/面白くない記憶をたくさん挙げる
②その物事が面白い/面白くない理由を分解する
③面白い理由を元に新たな面白いアイデアを作る/面白くない理由を元にそれを解消するアイデアを考える
例えば、面白くないこととして「満員電車」を挙げた場合、その理由は「疲労」「室温(暑い)」「悪臭」などに分解されます。「疲労」を解消するアイデアとして1日で体が柔らかくなるストレッチイベント、「室温」に対しては冷え性よい食べ物のグルメイベント、「悪臭」に対してはシュールストレミングの威力を試すイベントなど分解した理由を元に新しいアイデアを考えていきます。
アイデアを考えるプロセスに従っても200個も考えればアイデアのネタも頭打ちになってしまいます。ジョークグッズを考えるにあたって、高橋先生が課された課題はアイデアを1000個出すこと。200個が限度のアイデア出しの上限を1000個まで引き上げるにはどうすれば良いのでしょうか。
●偶然が生まれる「アイデアしりとり」
新しいアイデアをつくるには幾許かの偶然が必要だと言います。発想に偶然を生み出す手法が「アイデアしりとり」なのです。しりとりを通じて固定概念に捉われないランダムな言葉が出てきます。この偶然出てきたランダムな単語や動詞から派生させて考えることで、脳を活性化しアイデア出しの上限を引き上げることができるのです。1つの単語だけでなく、複数の単語や動詞を組み合わせて考えることも有効です。
このとき重要なのは、1対1でディスカッションすることと、脳より先に口で言わせること。一人で考えるのではなく、複数人で考えることで偶然性も生まれやすくなります。そのとき、緊張や牽制、意見を押し通しても良いのかという遠慮がアイデア組み合わせの阻害になります。つまらないかもしれないと思わずにまずは発言することが大切です。
また、ボツネタもアイデアの種としてストックすることも大切です。どこかのタイミングで何かと結びつく可能性があるので、ボツネタもメモにストックすることで幸運を逃さない態勢を整えておきます。
●企画を提案する
企画は面白いだけでは通りません。お金を払ってでも欲しいものか、徹底的に突き詰める必要があります。その際、「自分が本当に買いたいものか」を価値基準とし、企画を考えるときは常にこれを意識します。自分が求めていれば他の誰かも求めているのです。自分だったら、いくらなら購入するかというのも指標の一つとなります。
企画のポイントは、シンプルで分かりやすいこと、誰でも説明できるひとこと。また企画の良し悪しの判断基準は上司だけでなく、友人に話した反応でも判断できます。アドバイスをくれた相手を仲間にして、複数人による企画にすることも受け入れてもらうポイントのひとつとなります。そして没になることを恐れないこと。没になればなるほど、何がだめなのか分かってきます。そこに全てを次に繋げる高橋先生の意志を感じました。
失敗を恐れないこと、失敗の先が成功になるように行動することの大切さが印象的でした。意見交換の際も失敗を恐れて発言がなければ活発な議論はできません。アイデアを考えるだけでなく、テーマをどう膨らませるか、工夫を発展させるときにも活用できそうです。高橋晋平先生、ありがとうございました。