選科A 1班 チームどんぶらこ
伊藤佑太郎、沖花裕美子、加来謙一、菊池ちひろ、中島朋、横山実紀
「放射線」と聞くと漠然と不安を抱く人が多いのではないでしょうか。一方で、ある程度専門的な知識を持つ人には、「放射線は普段から身の回りにあり、生活の役に立っている面もあり、むやみに怖がることはない」と考える人たちもいます。
そこで私たちは、放射線について漠然と不安を抱く人を対象に、放射線の基礎知識や安全基準等を伝えた上で、「むやみに怖がるのではなく、参加者自身で安全や安心について自分の価値観を考え、そして他人の価値観に触れ、人によって意見や考え方が異なることを知る。考えるきっかけにする。」を目標に据え、イベントを実施しました。
イベントに向け、実施者同士の科学技術コミュニケーション
私たちが企画の軸として選んだのは「放射線」です。イベントの企画を練っていく中で、まず私たちが行うことになったのは、科学技術コミュニケーションでした。放射線について前提となる知識があるメンバーとないメンバー間で、期せずして科学技術コミュニケーションを実践、実感することとなったのです。放射線についての知識の共有や意見のやりとりの中で、知識がある側は「この程度は世間でも知られているだろう」という思い込みがあったこと、伝え方を工夫しないと全然伝わらないことを認識し、互いに考え方や感じ方には大きな差があることに気付きました。
この気付きから、ターゲットとする”放射線について漠然と不安を抱く人”が「放射線」に関心を持ち、イベントに主体的に参加出来る手法として、また、気持ちをベースにした内容を伝えるのに適した手法として「劇」を採用しました。そして、「放射線」という知識的にも心情的にも難しいテーマを身近に感じてもらうため、「桃太郎」という誰もが知っている昔話を物語の軸とし、放射線を利用した身近な例であるレントゲンを絡めながら新しい物語を考案しました。
(そもそも「放射線とは何なのか」を皆で共有します)
(苦労しつつも一つの物語を作り上げて行きました)
桃太郎誕生秘話ストーリー
おばあさんが川で拾ってきた大きな桃。その中から赤ちゃんのような泣き声がする。早速包丁で切ろうとするおばあさん、それを制してレントゲン(放射線)で中を確認してから切るべきだと言うおじいさん。桃の中身を包丁で傷つける危険性、よくわからないレントゲンを使うことで生じるかもしれない影響や危険性。互いに抱く疑問や不安感。そこへ専門家として街の名医(放射線に関する知識提供)や、鬼ヶ島大学の教授(安全基準や安心に関する情報提供)たちが、やってきて……。
さぁ、おじいさんとおばあさん、そして来場者の決断は!?
(レントゲンを使うべきか悩む、おじいさんとおばあさん)
(放射線について説明する街の名医、中島先生)
(安全基準と安心について語る、鬼ヶ島大学の加来教授)
(物語に入りこみやすいよう、登場人物の感情や疑問をシーンに合わせて表示します)
イベント前後の変化
(おじいさん:検査する / おばあさん:検査しない / それ以外:どちらでもない)
レントゲンを使用するかどうか、イベントの前半と後半で来場者に意思表示をしてもらい、その変化を調べました。
また、イベントの後半部分(劇終了後)では、来場者に直接インタビューを行い、検査について意思決定する際の個々人の価値観の違いを会場全体で共有しました。
(放射線に関するクイズを行ったり、来場者の意思表示の機会を作ったりと、工夫を行いました)
(色のついたカードを挙げて、自身の考えを示します)
アンケートからわかること
来場者からいただいたアンケートを分析したところ、ターゲットであった、「放射線に関心があり、放射線に対して怖いというイメージを抱いている人」は全体の半数近くの人に当てはまっていたことがわかりました。
また、物語形式を用いて「放射線」というテーマに参加者が入りやすくすること、考えることを苦しすぎないものにすること、という狙いも達成されたと思います。
他にも「重い話題をわかりやすくかつ軽々しくないよいバランスで伝えられていて良いと思いました。」「安全は安心からきているが、安心に必ずしもむすびつかないというキーワードが心に残った。」「「安全基準」については「人それぞれ」で納得。」などの意見もアンケートから得られました。ここから、目標であった「むやみに怖がるのではなく、参加者自身で安全や安心について自分の価値観を考え、そして他人の価値観に触れ、人によって意見や考え方が異なることを知る。考えるきっかけにする」は概ね達成されたと思われます。
しかし、当初議論した「正しく知る」とは何をもって正しいと言えるのか、その正しさを測る指標が曖昧になっていたことは反省点です。
学んだこと、発見したこと
今回、イベントの企画・運営を担当して学んだことは「時間管理と役割分担の大切さ」と「チームでイベントを創り上げることの楽しさ」でした。
限られた時間でイベント準備を進めるためには、時間管理、明確な役割分担、そして、議論が詰まった時の決定方法を決めておくことが大切なのだということを実感しました。また、リーダーシップを取る人の決定が難しかったこと、議論が詰まった時の決定法が明確でなかったので、結果として議論が停滞しスケジュールの遅延が何度も発生しました。
しかしなにより、初めて会ったまったく異なる背景を持つ6人が、それぞれの特徴や知識、背景を活かしてより良いものを作り上げていくことが可能であるということを、経験を通して学ぶことができました。各自主体的に出来ることを探し、自分の役割を果たし、サイエンスイベントを実施することが出来ました。
今回のイベントでは、毎日が気付きや学びが多い3日間だった一方で、反省や改善点も多く見られました。次回以降は、出来なかったことを修正して、準備も実施も、より精度を上げていきたいです。
(右から、伊藤さん、加来さん、菊池さん、執筆者沖花、中島さん、横山さん、古澤先生)
今回の役割は以下の通りでした