菊池 ちひろ(2017年度 選科/社会人)
大沼先生によるモジュール4-3の講義「ゲーミングで知る社会のダイナミックス」では、社会的ジレンマとそこから自らが望む社会状況を作り上げていくプロセスを、模擬的に体験する手法として「ゲーミング」を紹介していただきました。
では、実際のゲーミングとはどのようなものなのでしょうか?講義の終了後、大沼先生のもとで学ぶ大学院生で、CoSTEPの受講生でもある横山実紀さん(選科)の提案により、風力発電交渉ゲーム「風緑」が実施されました。
風力発電交渉ゲーム「風緑」
「風緑」は風力発電施設建設をめぐる議論を通して、プレイヤーが与えられた役割を演じながら、その役割ごとに定められた目標の達成を目指すゲームです。ゲームは進行役の大沼先生によるルール説明で幕を開けました。
舞台は、沿岸地域において一年中安定した風が吹く、風力発電最適地、A市。プレイヤーはA市における風力発電建設の是非を検討する会議で、15箇所の建設候補地それぞれに風力発電施設を建設するか否かを決定しなければなりません。プレイヤーにはそれぞれ異なる5つの役割が与えられます。役割はくじ引きで決定され、自身の考え方と異なる場合でも役割になりきって、ぞれぞれの目標達成を目指します。
(ペットボトルのキャップを再利用して作られた風力発電施設と木のコマ)
対立を生む構造
今回の参加者は15名。5名ずつに分かれ、3テーブルでゲームが実施されました。テーブル中央に置かれた、15の建設候補地とその周辺環境を示した地図。それを「風力発電事業者」「風力発電推進NPO代表」「市役所職員」「野生生物保護団体代表」「反対住民代表」の役に分けられた5人が取り囲みます。また、議論の制限時間を示すノートパソコンも置かれていました。
私が参加したテーブルではまず、それぞれ役割としての立場から、建設に関する考えや希望を出し合いました。講義後の実践ということもあり、お互いの関連情報資料を開示するなど、全員にとってよりよい着地点を積極的に探ります。しかし、そう簡単に着地点は見つかりません。
企業人として利益追求を目指す立場、税収増を願う役所の立場、健康被害を危惧する地域住民の代弁者としての立場。また、同じ環境保護であってもグローバルかローカルか……。自分の利益と、他者や社会の利益がぶつかってしまう、まさに社会的ジレンマの縮図、ともいえるような状況が展開されました。お互いが持つデータの食い違いや曖昧さ、また、短い制限時間からくる焦りも合意形成の邪魔をします。
このゲームは、設計者の意図により、あえて対立を生むようデザインされているのです。
合意形成のプロセス
ゲーム終了後、大沼先生による振り返りレクチャーが行われました。合意形成のプロセスは、情報共有過程から始まり、自己過程を経て共通目標形成過程へと進み、そして合意形成へと至るというものです。社会で議論される問題は、多数vs少数、グローバルvsローカル、科学的vs感情などといった、白か黒で決着をつけられないものばかりです。合意形成の促進には、個人の目標追及から全体としての共通目標を模索する立場への転換が必要であり、他者の価値観や視点を知ろうとすることが重要です。
今回、ゲーミングを体験し、自身の日常とは異なる役割として、問題に向き合いました。自分事としては譲歩できても、役割の立場としては譲歩できない、人の思考は自身の役割、つまり社会的状況に大きな影響を受けるのだということを実感しました。そしてこのことは、科学技術コミュニケーターを目指す上でとても貴重な経験となりました。
この機会を与えていただいた、大沼先生、横山さん、本当にありがとうございました。