堤 光太郎 (2017年度 本科/社会人)
私たちCoSTEPの学生は「科学技術コミュニケーション」について日々学んでいます。今回の講義では、仮想現実のコミュニケーション空間を疑似体験できる「ゲーミング」という手法を学びました。講師は大沼進先生(北海道大学環境社会心理学研究室 准教授)です。
「葛藤」を疑似体験するゲーミング
まず、ゲーミングを理解するための背景として、大沼先生は「共有地の悲劇」と「社会的ジレンマ」という2つの言葉を紹介しました。共有地の悲劇とは、個人の利益を追求していくと結果的に全体の利益が失われてしまうことを指します。しかし個人の利益を追求(全体への非協力を選択)した方が短期的には望ましい結果を得られるというジレンマがあり、その葛藤を社会的ジレンマといいます。
ゲーミングでは、その社会的ジレンマを擬似的に体感することができます。例えば環境問題に関するゲームの場合、参加者にはそれぞれ「工場経営者」や「環境保護団体」といった役割が与えられ、その役割に「なりきる」ことを求められます。そして、役割に応じて課せられる「目標」を達成するために、他の参加者と相互に競争したり共同したりするのです。場合によっては役割間で利害が対立する目標を達成する必要があるため、そこで生じる葛藤に対して参加者はだんだんと感情を含めて反応するようになります。
「役割」にのめり込んでいく私たち
社会的ジレンマを解消するためには、「相互に協力した方が得である」といった目標転換と「他者も協力してくれるだろう」という期待形成が重要であること、つまり協力について「話し合い」をすることが重要であると学びました。たとえ、利害が対立する役割同士であっても、協力して環境を悪化させない方法を見つけられるかもしれません。しかし、実際のゲーミングでは役割の目標を意識するあまり、「話し合い」が上手くいかず結果的に環境を悪化させてしまうチームもあります。与えられた「役割」と参加者の「自己」が分離できないほどにコミットしてしまうゲーミングだからこそ直面するリアリティであると言えるかもしれません。
他者の「現実」を理解できるか
「科学技術コミュニケーション」を学んでいく上で、私たちは今回の講義を通じてどのような気づきを得ることができたでしょうか?私は、大沼先生が講義中に語られた「他者の現実を理解できるか」という言葉に大きなヒントが隠されていたと思います。これは、日々様々なコミュニケーションの手法を学んでいる私たちが、常に直面する「『誰』に伝えるのか」という問題に通底する言葉であり、今回私たちが学んだゲーミングは、異なる役割を持つ(違う現実を生きる)他者を理解することの難しさを肌で感じられるものでした。
葛藤は「問い」へと変わる
「どう伝えれば、全員が納得して結論を出すことができたのだろう?」
「自分が提示した資料、語った言葉は相手にどう映っていたのだろう?」
講義の後、実際にゲーミングが行われました。参加した後、私は、思うように話し合いが進まなかったゲーミングの場を、あたかも現実世界で起きた出来事のように振り返っていたことに気がつきました。ゲーミング中に直面した葛藤は、終わった後も私に様々な問いを投げかけてきたのです。
大沼先生、本当にありがとうございました!