実践+発信

チラシデザイン:97サイエンスカフェ札幌「見えるものを見るAI 見たいものをみる人間 ~機械に「正しく」学習させるには~」

2017.11.16

制作者:藤原那奈(2017年度本科・北大農学院修士1年)/制作年月:2017年9月

今回のサイエンス・カフェ札幌のテーマは「AIと人間の付き合い方」。話し手は、北海道大学大学院情報科学研究科准教授の瀧川一学さん。「AI」という複雑で注目度の高いテーマを取り扱うにあたり、カフェの企画運営を担当する対話の場の創造実習班(以下、対話班)の皆さんは、AI分野のどの部分をピックアップし、どうすればわかりやすく伝えられるのかを連日突き詰めていました。その熱意に刺激を受け、私もこの分野の面白さを伝えられるデザインにしたい!と思うようになり、一緒に勉強しながらチラシ作成に取り組みました。

「機械学習」初心者としてのスタート

今回のサイエンス・カフェの目的は、機械学習の話を中心として、AIと人間の付き合い方を考えること。タイトル「見えるものを見るAI 見たいものをみる人間 ~機械に「正しく」学習させるには~」はかなり早い段階で決まり、対話班からお知らせいただきました。馴染みのない「機械学習」という言葉、まずはこの概念を理解するところからのスタートでした。

(カフェ当日の配布資料。機械学習とは何かをわかりやすく図解したパンフレットは、

グラフィックデザイン班の宇都幸那さんが中心になってデザインしました)

その後瀧川先生のお話を直接聞く機会があり、ぼんやりと機械学習のイメージをつかんだ私の初期案は、AIと人間を対比するようなデザイン。2つの違いははっきり示しつつも、ともに歩んでいけるような構図にしたいと考えていました。同時にクライアントである対話班リクエストのタイポグラフィー案も構想し、これら2つを軸に思いついた案をまずは紙に書き出してみました。

(初期案_手書き)

この初期案を元に対話班の才川さん、種村先生、グラフィックデザイン班の池田先生とミーティングをした結果、人型のAI表現ではAIが内包するフィールドの広さや機械学習の本質を表すことはできないと気づきました。そこで人間とAIの対比を外見ではなく、タイトルのように同じ対象を違う目線で表現することで示せるのではないかと考え、グラフを使うことを思いつきました。

 

(イメージが固まってきたころの案_PowerPoint)

タイポグラフィー案(左)では「見」の字をAIではグラフ、人間では目で表して対比させました。またリンゴ双曲線案(中央)では瀧川先生の資料の中にあったリンゴを見分ける機械学習の例から、AIから見たリンゴ(グラフのドット)と人間から見たリンゴ(リンゴの絵)で対比させました。さらに瀧川先生ご自身のスタイリッシュな雰囲気に合うようなデザインにも挑戦したい!と思い、文字だけで図形を表す案(右)も考えました。これらの案のベースカラーを瀧川先生の好きなライトグレーにすることを決め、できるだけシンプルなデザインになるよう心掛けました。

これらの案がカフェテーマから逸脱していないかを対話班の皆さんに確認してもらい、さらなるアドバイスを頂いていよいよ本格的な作り込みに入りました。そしてこの時、私のターニングポイント “Illustratorを伝授される” が起こったのです。できたらいいなをカタチにできる道具を手にした私は、上記3案をブラッシュアップし、3つの原案を完成させることができました。

(原案_Illustrator)

対話班にお見せした結果、なんと左から「わらちゃんフォント」「ドットリンゴ」「手書き文字リンゴ」と各案に名前まで付けていただきました。気に入ってもらえてほっとしたのと同時に、とても嬉しく感じたことを覚えています。そして話し合いの結果、カフェのテーマに最も忠実であるドットリンゴ案でデザインの方向性が決まりました。人間から見たらリンゴのように見えるけれど、AIから見るとただのデータ(ドット)の集合体、という少し遊び心を入れたところが私も気に入っていました。

この案を仕上げていくにあたり、対話班からの要望は“データ感と柔らかさの両立”。そしてCoSTEPの先生達からのアドバイスは“リンゴ、もすこしわかりやすく”。この2つを適えるべく、リンゴのドットを□から○にすることで柔らかさを、また本物を点描することでよりリンゴ感を表現ました。そして明度や文字の配置など細かい点を池田先生に調整してもらい、ついにチラシは完成しました。裏面は表面と対になるよう、表面と同じ位置に矢印を配置してグラフを表現しました。

 

(完成稿)

(チラシのデザインを基本にバナーも作成)

チラシ作りを通して学んだこと

チラシ作りを通して実感したことは「こまめに相談すること」の大切さです。私はこれまでデザインというものをほとんどしたことがなく、また機械学習についても初心者だったので、両方を勉強しながらのチラシ作成となりました。そのため特に初期案作成の頃は、デザインを構想しても、これはテーマを正しく表現できているのか?と不安に駆られていました。でもグラフィック班メンバーにこの案はどうでしょう?と相談することで、不安はいつも解消されていました。「ここいいね!」や「こうした方が良くなるよ!」と自分では気づかなかった点を褒めてもらい、そしてアドバイスをもらえることが本当に嬉しく、支えとなりました。また気が緩むタイミングで必ず「調子どうですか?」と連絡をくれる名マネージャーこと才川さんを始め、対話班の方からの具体的なアドバイスにもとても助けられました。

 

(迷走しても戻って来られる。そう、グラフィックデザイン班ならね。)

チラシはただの広告ではありません。対話班の伝えたいことを表現すること、お話しする先生のイメージや好みに合うこと、そして何よりサイエンス・カフェを知らない人の目に留まり興味を持ってもらうことなど、1枚に多くのものを詰め込まなければなりません。最初からこれら全てを意識したわけではありませんが、作り進めるうちにより体感することができました。それ以来、チラシやポスターを見る目が変わり、駅や大学構内で見かける度にいい点と悪い点が目に付くようになりました。デザインに対する姿勢が見る側から作る側に少し変わったなと思います。日ごろから良いデータ(デザイン)を集めることが大事、という今回のサイエンス・カフェのメッセージをひしひしと感じています。

また手法の重要性も認識しました。そもそもPCの類に疎い私のデザイン手法は手書きかPowerPoint。「パワポごり押し」という単語が生まれるほど、初めはこれらの手法のみで何とかしようとしていました。しかしIllustratorを習得してからは、自分でも驚くほど劇的にデザインが向上。究極的には手書きだってポワポだって問題ないのですが、やはり頭の中で思い描いている構想をきちんと具現化するには、適切な道具を使用することがとても大切なんだ、と実感しました。

(質問カードのデザインは、佐藤奈波さん

終わりに

今回のチラシ作成に当たり、優しくそして本当に丁寧にご指導いただきました池田貴子先生、大量のラフ案に対していつも温かいコメントを返して頂いたグラフィックデザイン班の皆様に感謝申し上げます。また具体的なコメントでチラシ作成を支えていただきました、種村剛先生をはじめとする対話班AIカフェメンバーの皆様にも御礼申し上げます。そして最後に、チラシ完成後いいデザインだね!と声をかけて頂いたCoSTEPの先生方と受講生の皆様、本当にありがとうございました!
(ゲストの瀧川先生ご一家と)