実践+発信

「科学技術コミュニケーションとは何か」(5/13)川本思心先生講義レポート

2018.5.17

三上 博光(2018年度 選科/社会人)

2018年のCoSTEPがいよいよ始まりました。今日は、モジュール1-1「科学技術コミュニケーションとは何か」です。川本思心先生(北海道大学 理学院准教授/CoSTEP)から、科学技術コミュニケーションの歴史的な経緯、日本における現状について、講義をしていただきました。

科学技術コミュニケーション、科学技術コミュニケーターの定義

科学技術コミュニケーションという言葉には明確な定義はないが、専門家と市民の間で交わされる科学技術に関する幅広い内容を包含するコミュニケーション活動であり、専門家と市民とが同じ目線で語り合うことが大切である。科学技術コミュニケーターを機能として定義すれば、専門家と一般市民との間で、双方向的なコミュニケーションを確立する人材をいい、研究者、教育者、科学館・博物館説明者、メディア、行政、NPOだけでなく、一般市民までその担い手になり得る。職能(職業)として定義すれば、科学技術記者、サイエンスライター、科学館・博物館関係者、大学・研究機関・企業等の広報担当者が該当するが、何か資格がなければできない、あるいは、職業にしていなければならないとは考えてい

ない。

科学技術コミュニケーションはなぜ生まれたのか

科学技術コミュニケーションという言葉がなかった時代にあってもそれに類似する活動はあったが、科学技術コミュニケーションという概念が生まれるには、その必然があった。1972年、A・ワインバーグは、宇宙線被ばくや低線量放射線被ばくを例に、「科学で問うことはできるが、科学だけでは解決できない問題」、いわゆるトランスサイエンスの領域があることを示した。1985年、英国で始めて報告されたBSE(牛海綿状脳症)は、当初「極めて罹るリスクは低いが、罹ると甚大な影響になる」と報告され予防策が講じられてはいたものの、117名が死亡する結果を招いた。このBSE問題は、英国の科学技術政策、科学と公衆に関する概念に、「信頼の危機」というべき大きな影響を与えた。1999年にはJ・ラベッツが遺伝子組み合え、BSE等、科学技術の影響を確認する手法の不在、専門家内での意見の不一致、意思決定システムの不確実性、価値や経済的な利害間駅の複雑さの増大を、ポストノーマルサイエンスと呼んだ。専門家が一方的に市民を啓蒙する従来の欠如モデルは、多様な科学技術コミュニケーションのニーズが認識されるにつれ、その一方向的な見方は批判されるに至った。

日本の現状

日本における科学技術コミュニケーションの導入については、米国、英国での事例研究から始まり、科学技術基本計画(2006)のなかで、科学技術コミュニケーションを担う「科学技術コミュニケーター」という存在が明記された。それを受け、国の予算である科学技術振興調整費によって、北海道大学をはじめ、いくつかの大学・博物館等で「科学技術コミュニケーター」の人材育成事業が始まり、同時にサイエンスカフェ等の対話型・市民参加型のイベントも全国各地で開催されるようになった。それから10余年、専門家が持つ市民像、実際に市民が持つ懸念の間には差があり、2011年に起きた東北地方大震災では「役立たず論」さえ顕在化した。これらの問題を超えて、なぜあなたは科学技術コミュニケーションするのか、一人ひとり考えて欲しい。

私は現在、企業の広報部でエネルギー広報に携わっていますが、最初の講義で、ものすごい高い壁の前に立っていることに気付かされました。一年間かけて、すこしでもよじ登ろうと思っています。川本先生ありがとうございました。