実践+発信

「インクルーシブデザインとは除外しないデザインについて考える〜」(9/12)ジュリアカセム先生講義レポート

2020.10.27

楊 曄(本科/学生)

モジュール3の講義のテーマは、活動のためのデザインです。科学技術コミュニケーションの活動を社会の中で行っていく際に、どのようにデザインしていくのかに関する講義が用意されています。その中で今回の講師は、京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab. 特任教授のジュリア・カセム先生です。カセム先生は、インクルーシブデザインを語るときに欠かせない、第一人者の方です。

インクルーシブデザインについての基本的な概念

そもそも、インクルーシブデザインとは、高齢者、障碍者、外国人、など、従来デザインプロセスから除外されてきた多様な人々をデザインプロセスに巻き込むデザイン手法です。現代に満ち溢れる多様性に寄り添ったデザインだと言えます。

どうして、インクルーシブデザインに注目しているか。それはエキストリームを理解するとメインストリームのイノベーションが可能になり得るからです。言い換えると、少数派の人のために使いやすく設計されたものが、世の中を変える技術やデザインになり得るということです。例えば、タイプライター、ウォシュレットトイレなど、新しい技術が障碍者のために設計されたものが現在の世の中の普遍的なデザインになったものの例です。

カセム先生がインクルーシブデザインを行う際に特に意識していることは、ペルソナとして机上で想定するのではなく、障碍者をデザインパートナーとしてプロジェクトに参加させることです。こうして、インクルーシブデザインの基本である、文脈を理解して生かすこと、強みと弱点を分析し見つけること、強みを生かして弱みを補うこと、コラボレーションチームを形成することを常に意識しているそうです。

インクルーシブデザインの実践事例紹介

本講義でカセム先生は、京都工芸繊維大学におけるインクルーシブデザインの実践事例をいくつも紹介してくれました。以下の事例を写真や動画を交えながら、活動の内容はその背景を話してくれました。


・外で働く人のための移動販売の箱の設計


竹の内部構造から、軽くて丈夫な構造物を作成する

・パームヤシの産業廃棄物から繊維を取り出し、利用する。

・ショウジョウバエの遺伝子マップを作成し、難解な神経症についての研究を進める。
ビデオ1 ビデオ2

今回の講義で一番印象に残った点は、「エキストリームを理解するとメインストリームのイノベーションが可能になり得る」という点です。何かものを作る際、ユーザー目線を持つだけでなく、更に従来のデザインプロセスから除外されている人たちの立場を考えることが、より良いモノづくりにつながるという視点は今まで持ったことがありませんでした。

また、インクルーシブデザインはデザイナーやアーティストだけの仕事ではないといったカセム先生の言葉も、強く残っています。物を作るとき、問題解決を行う時、様々な立場で考えて、良いアイデアをみんなでつくりあげることが大事です。誰をターゲットとして、どんな文脈で用いるのかを考え、その中で、サイエンスコミュニケーションの役割としてどういう風に活用できるのかを考えていきたいと思いました。

沢山の事例も聞けて、とても楽しい講義でした。カセム先生、ありがとうございました!