石塚 智美(2020年度 本科/学生)
今回は、世良 耕一 先生による「コーズ・リレーテッド・マーケティング」についての講義の報告です。社会貢献と聞くと、CSR(Corporate Social Responsibility)やCSV(Creating Shared Value)といった言葉を思い浮かべる方が多いかもしれません。コーズ・リレーテッド・マーケティングとはどのような考え方なのでしょうか。
コーズ・リレーテッド・マーケティングの概念
アンケートによれば、社会貢献を実施している企業や経営者の多くは陰徳に縛られ、「社会貢献は陰でやらないといけない」と思われてしまっているといいます。しかし、ある主体が、コーズと呼ばれる対象にする活動(=社会貢献)について、何らかの形でコミュニケーションを取ることでマーケティングに結びつけ、さらに全体を俯瞰して捉えると公益につながるというのがコーズ・リレーテッド・マーケティングの概念となります。
コーズとは
では、コーズとは一体何かというと、世良先生は「公益性のある支援対象」と捉えられています。例えば、NPO、ユニセフ、ベルマーク財団、国土緑化推進機構などです。
フィランソロピーと「1ℓ for 10ℓ」
コーズ・リレーテッド・マーケティングは、主体に何かしらのマーケティングの目標(販売促進、ブランド構築、製品差別化)が必要です。それが前提にあり、寄付付き商品などの社会貢献(=コーズ支援活動)を行うのがコーズ・リレーテッド・マーケティングです。一方、コーズ支援活動ではあるけれど、マーケティングの目標として捉えられていないものをフィランソロピーと呼びます。
コーズ・リレーテッド・マーケティングの火付け役は、ボルビックの「1ℓ for 10ℓ」の取り組みだとメディアなどで取り上げられました。しかし、当時ボルビック自身はこの活動の目標にマーケティング課題の解決は掲げていなかったため、コーズ・リレーテッド・マーケティングではなくフィランソロピーといえます。(現在「1ℓ for 10ℓ」プログラムは終了しています。)
消費者の批判的反応
ボルビックは大々的にCMを流していたので、何らかのマーケティング効果があったかもしれません。もしこのとき、ボルビックが単なる社会貢献でマーケティングではないと言い張ったとすれば、消費者が予想する狙いと企業が掲げている狙いに乖離が生じてしまい、偽善に映ってしまうことがあると世良先生はいいます。このような消費者の批判的反応は、コーズ・リレーテッド・マーケティングを通して企業が利益を得ていると思われることからあがってくるのではなく、コーズ・リレーテッド・マーケティングを通して企業が得ている利益に嘘をついていると思われることからあがってくるといいます。
CSR、CSVとの関係性
続いて、CSR(Corporate Social Responsibility)とCSV(Creating Shared Value)との関係性を見ていきます。コーズ・リレーテッド・マーケティングの主体は企業だけでなく、企業以外の組織も主体になりえます。ただ、CSRやCSVとの関係性を見る際は、コーズ・リレーテッド・マーケティングの主体は企業と捉えられます。分類方法は、企業が行う本業と本業以外の事業を、強制的か自主的かという視点で分けられました。CSRは本業と本業以外の双方を通して「社会的価値」を生むものとされ、CSVは本業を通して行われる活動で、「社会的価値」と「経済的価値」の共通価値を直接的に生むものです。コミュニケーションすることで生まれる価値は含まれません。
しかし、研究者のPorter and Kramerは「従来のCSRは、事業との相関関係がほとんどなく、正しいアプローチではない」と指摘したそうです。それに対して世良先生は、コーズ・リレーテッド・マーケティングの考え方を取り入れ、CSRもコミュニケーションを取ることによって経済的価値が生まれ、CSVと共存可能となると考えられています。
コミュニケーション実例-アサヒスーパードライのCM-
では、どのようなコミュニケーションが取られているかという実例を一つ紹介します。
*本業以外を通したコーズ・リレーテッド・マーケティング(上図の赤字部分)
アサヒスーパードライのCMですと、スーパードライ1本1円につき、全国47都道府県の自然や文化財等の保全活動に活用されるという事例がありました。
*本業を通した企業倫理のコーズ・リレーテッド・マーケティング(上図の青地部分)
同じアサヒスーパードライのCMですが、こちらは本業の製造過程において環境を配慮しているというコミュニケーションをし、経済的価値を生むというものです。
コーズ・リレーテッド・マーケティングの効果
コーズ・リレーテッド・マーケティングの効果には、マーケティング目標の実現以外にも効果を及ぼします。講義の中で気になった効果に「インターナル・マーケティング」があります。「企業にプライドを持っている」「企業にロイヤルティーを持っている」という企業の割合は、コーズ・リレーテッド・マーケティングを実施している企業の方が実施していない企業よりもかなり高い結果が出ており、従業員個人においても、「自社の価値観に誇りを持っている」「自社に強いロイヤルティーを感じている」割合は、コーズ・リレーテッド・マーケティングに関わっている従業員の方が関わっていない従業員よりも高いことが分かりました。このように、勤務意欲の向上にも役立つとされています。
まとめ
コーズ・リレーテッド・マーケティングの考え方から科学技術コミュニケーションについて学べるのは、コミュニケーションを通して価値と活動をどう結び付けていくかということだと思います。講義の中で多様な実例をご紹介いただき、コミュニケーションの実施におけるヒントをいただきました。世良先生、ありがとうございました!