グループ名:CBA CoSTEP Broadcasting Association
メンバー:しおちゃん あさちゃん ニッシ― ゆう コマツ けい
【イベントの目的】
参加者が「疑似選挙」という手法を通じてトランス・サイエンスといった問題にどう向き合っていくか共に考えるきっかけをつくる。
【イベント設定の経緯】
今回のメインテーマである「時」を考えた時、メンバーから「クライオニクス」「人体冷凍保存」といったワードがでてきました。そこで「時を止める技術」が近い未来に実現しそうであることを踏まえ、「時を止めることができたら、あなたはどうする?」という問いかけを参加者に投げかけたいと考えました。ここで一方的にならないように参加者のアクションで結末が変わるようにしたいと思い、またイベント前日が参院選の投票日であり、タイムリーだったことも踏まえ、疑似選挙という枠組みとすることにしました。
企画内容
21××年の選挙直前の討論番組、という体裁でイベント開始。はじめに「時」をとめる技術として冷凍保存技術に関する専門家の解説を行いました。
その後、その技術を人体冷凍に応用することについて、VTRで一般市民の声をで紹介し、賛成派と慎重派の政党党首による討論を行いました。討論を「食品冷凍技術」と「人体冷凍技術」の2つにしたのは、身近で考えやすいものから身近でなく、倫理的な観点などからも考えなければならないもの、という段階を踏んだ議論をするためでした。
討論の最中にMentimeterというリアルタイムで投票結果がわかるアプリケーションを導入し、参加者の意見を可視化しました。これは参加者に意見を投票することで「自分事」として考えてもらうためでした。
討論後、参加者にはどちらかの政党に投票します。ここで「食品の冷凍技術の進歩には賛成だけど、人体冷凍はちょっと……。」といった考えの人でもどちらかに投票してもらうようなシステムでした。
実はこの葛藤も狙っていたものです。現実の選挙では、各政党の政策を見て投票を行います。その際、今回と同じような葛藤が起きますが、結局どこかには投票しなければいけません(一番「マシな」とこを選ばなければならない)。現実の選挙で科学技術が大きな争点となった場合を想像して、多少リアルな世界観を設計したつもりです。
この投票結果を踏まえたシナリオは2パターン制作してありました。リアルタイムのオンラインイベントである意義をここに込めたつもりです。どちらの結果になったとしても「科学に関する意思決定を市民が関わって行った」という結果を目の前にして何を考えるのか、あるいは今後どう考えて行けばいいのか、そのきっかけを提供したいという思いからでした。
アンケート分析
年代、性別共に広い層にご協力いただきました(やや男性多め)。年齢や性別が投票先、つまり科学技術への姿勢に関連が見られると予想していたのですが、関連性は確認できませんでした(サンプル数が少ないのもあると思いますが)。
投票先を決定するにあたって「倫理的側面/科学的側面」を重視したかについて質問しましたが、「倫理的側面/科学的側面」のどちらも6割以上の方が「そう思った/強くそう思った」と回答しました。
倫理的側面をより重視する考えの人は「今を生きる党(慎重派)」、科学的側面をより重視する考えの人は「チーム・フリーズテック(推進派)」に投票しているのはイベントのデザイン通りでした。興味深い点としては慎重派もある程度科学的側面を重視していること、一方の推進派も同様に倫理的側面を重視している点です。「投票」というシステムがある程度倫理的側面に重きを置かせるようなデザインである可能性も見えた気がします。
最後に「科学技術の方向性を投票によって決定することに賛成ですか?」という問いを投げかけましたが、「どちらともいえない」が一番多い結果となりました。短時間で制約が多いイベントの中で考え、回答しなければいけないこともあり、賛否両論というよりは判断ができない状況といえそうです。
自由記述欄では科学技術政策を投票というシステムに組み込む上でいくつかの声が寄せられました。専門家でない一般市民が判断することへの不安や、倫理的問題へ個々人が向き合わなければいけないという責任の大きさ。一方で、社会全体の総意を科学技術政策へ反映させることの重要性も書かれていました。「多数決」という手段へ至るうえでの丁寧な説明や合意形成、ともに考えるフェーズの不十分さも挙げられました。これは科学技術コミュニケーションを行う上で真摯に向き合わなければいけない課題のひとつであり、イベントを通して可視化できたと感じています。
ふり返り
私たちのチームで伝えたかったのは「トランス・サイエンスといった問題を有権者が共に考えるようになるためのきっかけとなること」でしたが、実際にその現場を演技することで、現実になった際の問題点を考えることにもつながったのかなと思います。
一方で「このイベントを通して何を伝えたかったのかがわからない」といった意見もありました。目的をより明確に伝えるためのデザインには課題が多いと感じています。
担当の沼田先生はじめ3日間ご指導いただいたCoSTEPの先生方、イベントに参加し、アンケートに協力してくださった皆様、ありがとうございました。
本記事は、2025年7月21日(月/祝)に実施した2025年 選科Aオンラインサイエンスイベント「時」の報告記事の1つです。CoSTEPの選科Aコースでは、全国各地の選科A受講生が札幌に集まり、オンラインサイエンスイベントをいちから作り上げる3日間の集中演習を行っています。24人の受講生が4グループに分かれ、計4つのイベントが行われました。以下のリンクより、ご覧いただけます。他の活動報告も順次公開していきます。ぜひご覧ください。
・選科A活動報告「ラブラブカップルに水をさすな!?」
・選科A活動報告「正しさだけでいいんすか? ~ネット番組から考えるサイエンスコミュニケーション ~」
・選科A活動報告「タイムセール ~時間、買いませんか?~」
・選科A活動報告「激論!投票直前スペシャル!!~あなたの一票で時が止まる?~」(本記事)