12月13日金曜日の17時から、モジュール7の講師を務める橋本 典久(明治大学・武蔵野美術大学)先生のワークショップ「「本」を素材に思考実験」がありました。
橋本先生は、世の中の物事を観察し、自分なりのルールを決めて多様なメディアに展開していく作品を制作されています。今回のワークショップでは、「本」をいろいろな方法で楽しむことで、新たな発想につながる頭の体操のようなことを行うことを目指しました。
ワークショップの参加者は、名の知られている文庫本を一冊ずつ持って集まりました。名作と呼ばれる本に、手を加えるタブーなことにチャレンジするワークが続きました。本の一番最初の文章と、一番最後の文章だけを読み、タイトルの前に「超訳」をつけて朗読してみるワークや、ランダムに本を開いて指で指した名詞の前に、「タイトル+の」をつけて朗読してみることを行いました。本によって、普段と全く異なる方法で本を楽しんでもその本の内容が滲み出るものもあれば、そうでない個性が現れるものもありました。名詞の前にタイトルをつけるワークの場合は、名詞一つだと抽象的だったのが、意味が限定されることでイメージが広がるような気がしました。
<黒塗りワーク>
本をランダムに開いて、残っている言葉で文章になるようにいらない部分を黒く塗るワークです。アートの世界だと、シュールレアリズムのアーティストたちが用いていた手法です。名作と呼ばれる本を黒く塗りつぶすタブーな行為を通して、本を一つの表現や思考の材料として使うことができ、普段あまり行わない朗読でみんなと内容を共有する体験をするワークでした。
<俳句づくり>
季語は使わないにしても、5/7/5のルールに合わせて言葉を選んで、その言葉を切って並べるワークです。参加者と話し合って、ランダムなページからその言葉を集めることにしました。俳句の終わりには自分の名前をしっかり書いて、みんなで見せ合いました。
<自分のルールでワークをやってみる>
最後のワークは、自分が作ったルールにしたがってワークを行うものでした。最後のワークは、先ほど作った俳句の左側に配置させました。参加者の名前を消した状態で、ワークショップで作成したものを共有します。
登場人物がお互いについて語ったことを整理してみた参加者
「雪」の前にあった言葉だけを切り取り、文章の冒頭から並べた参加者
1ページで最もたくさん登場した言葉順に並べた参加者
対話文を再構成した参加者
ネガティブなものとポジティブなものを並列した参加者
登場する虫を会社の人間関係に例えた参加者
最後にはワークショップの感想を語り合うことで学びを振り返りました。解釈は創作の始まりであることに気づいた意見、作為的な言葉を消す行為から様々な発想につながったという意見、普段と異なる脳の使い方が知れたという意見、予想もできなかったことがあるルールについてつくられることの楽しみを感じたという意見、自分のアウトプットは自分を表しているように感じて恥ずかしかったという意見、他の意見を聞ける場になったという意見、ある意味セラピーのように感じられたという意見など、幅広い感想がありました。
現代アートの中で、本は一つのマテリアルとして使われています。あるルールのもとに、偶然な繋がりや発見をし、そこから何かを表現するきっかけをつくるために、本は大変有効な手段であることに気づかされました。また、本を構成している文章の中に、一つの元素とも言える文字を見つめることで、新たな文脈をつくる体験が新鮮でした。
橋本先生が最後に語った、実験は自己投影で、新たなものを生み出すためのものだ、という言葉が印象に残ります。見慣れた対象も、自分なりのルールで実験を繰り返すことで、新たな創作のタネになる可能性を感じました。
みなさんも、身近な本を素材に思考実験してみたらどうでしょうか。新たな発想につながるかもしれません!