小沼 嘉乃(2019年度 選科/学生)
モジュール7の「社会における実践」の二回目は、谷 明洋さん((株)オンデザイン「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員/フリーランス)から『「地域を伝える」→「科学を伝える」→「地域を科学して伝える」とつながった仕事の話』というテーマで講義を行っていただきました。
不思議な経歴の谷さん
不思議な経歴をもつ谷さんなので、皆さんとどこかで必然的な繋がりがあるかもしれません。
谷さんは小さい頃は星空を見上げるのが大好きな天文少年。大学は農学部に進学。アジア横断の旅行記を書くことや写真を撮ることが楽しかったことから「地域を伝える」新聞記者に。そこから、「科学を伝える」日本科学未来館の科学コミュニケーターとなり、現在は、横浜市の設計事務所で「地域を科学して伝える」仕事をしています。それ以外にも、日本各地の様々な地域に出向いて地球や宇宙を語るイベント、日本科学館ツアーをするなど活動は多岐にわたります。
心が動くことを大切に
谷さんは「心が動くことを大切にしてほしい」と話します。自分の話題を通してこれからどうしていくのか対等な立場で一緒に考えていきたいという思いから、”先生”は禁止!だそうです(笑)
そのために、受講者同士の話し合いの時間もとりながら、受講者の期待や知りたいことに沿って講義をすすめてくれます。谷さんの穏やかな雰囲気は聞く人を惹きつけ、教室内に安心して会話できる良い空気が流れていました。
科学だからこそ、「伝える」の先には「問い」や「対話」による価値観の交換がある
新聞記者と科学コミュニケーターを経て、伝える目的は「対話や価値観の交換」に辿り着いたといいます。
新聞記者時代には伊豆半島での支局生活や地元のサッカーチームの取材をしていたという谷さん。実際の記事には受講者から感動の声があがりました。新しい発見を求めて地域に足を運んで地道に取材をする新聞記者は働き甲斐のある仕事だと感じました。
谷さんは記者の仕事を通して、自分の楽しいと思うことは宇宙や自然科学だと再認識し、日本科学未来館で次のステップにすすみます。新聞記者の情報を素早くつかみ的確に伝えるための幅広い知識や文章力といったスキルは、日本科学未来館でも生かされたそうです。
そして、谷さんの未来館ツアー疑似体験!
谷さんは私たちに色々な問いを与えてくれます。世界といったら何を思い浮かべる?共感ってなんだろう?情報はどこまで知りたい?ロボットのいる生活って?ロボットとはどんな関係だと心地よいだろう?…
谷さんは、伝えるの先にある感情や価値観に問いかける対話を大切にしています。科学について学びつつ、科学の視点で世界をさぐって、感じたことや思ったことを参加者同士で話し合うことで未来をつくる。そういった価値観の交換が谷さんは楽しいと思ったそうです。
都市を科学する
設計事務所といえば建築家のイメージですが、谷さんの仕事は、図面を書くことではなく、「地域を科学して伝える」ことです。谷さんは、科学を分野ではなく行為と捉え、「科学する」は、「さぐる」「分かる」ことであり、設計や建築のような工学は「つくる」「変える」ことであるといいます。そして、さすが、問いかけ好きの谷さん。科学するの場合の問いは「どうなってる?」、工学の場合の問いは「どうする?」になるといいます。
「どうする?」を考え、「つくる」を積み重ねてできた都市が「どうなってる?」のかを探ると、どんなことが見えてくるのか、建築と都市の関係性について『スタジアムが都市における役割』を例に紹介していただきました。
スタジアムには、スポーツをする・見る役割だけでなく、その外側に広がる都市との関係性から、楽しみの多様化やスポーツ以外の活用など多様な役割があります。こういった、人、建築、都市などの関係を一つの図で見える化するとスタジアムに関わる様々な人の生態系となることが分かります。谷さんはこういった事例を集め未来を考え、次の都市をつくるためにつながる仮説を導き出し、都市を科学しているのです。
自分は何が楽しいのか、を考える時間
今の仕事につながる谷さんの様々な経験の話を通じて、地域と科学、そして科学技術コミュニケーターというキャリアを考えることができました。科学技術コミュニケーターの特徴は何か、そして自分の強み、自分が楽しいと思うことは何か、そしてそれをどんな風に活かすことができるのかを考える有意義な時間になりました、私も、自分の「楽しい」を見つけるために、これからも色んなことに挑戦していきたいと思いました。
谷さん、ありがとうございました!