2020年10月21日(水)17:00~19:00に札幌文化芸術交流センター(SCARTS)で哲学対話カフェを開催しました。参加者は8名。今回のテーマは「VR(ヴァーチャル・リアリティ)で死者を再現することは是か非か?」。会場はSCARTSでの展示「当たり前の決まり方」の会場でした。
今回の哲学対話カフェの内容
今回の哲学対話カフェでは二つのことを目指しました。一つめは、最新の科学技術をめぐる複雑な問題から「そもそも」を問う哲学的な問題を引き出してくることです。二つめは、問いの具体化やその問いへの応答の中で用いられる哲学的なスキルを参加者の方々に体感していただくことです。これら二つのことを目指して、以下のワークをもとにした対話を行ないました。
①問いについて問う
まず、参加者の方々に「今回考えてみたい哲学的な問い」を提示してもらいました。「死ぬとはどういうことか?」とか「VRで死者を再現することは他のメディアで死者を再現することとどうちがうのか?」など、さまざまな問いを挙げていただくことができました。そして、自らが提示した問いについて説明し、全員で疑問を共有することを通して、今回のカフェで考える問いを一つに絞りました。具体的には、「もしVRが現実と虚構を区別できないくらいに発展した場合、死者をVRで再現することは許されるか?」という問いを、一つの「思考実験」として考えることになりました。
②問いを深める
そして、この問いに許される/許されないという二択で応答して、なぜそのように思うのかの理由を全員で吟味していきました。ここで目指すのは、答えを一つに決めることではなく、理由のバリエーションを明示して、それを言語化することです。このワークを通して、許されない理由を「死者は自分についての解釈を撤回することができないから」というものとして言語化しました。また、許されるという側の意見には「仮に視聴者に再現されたものがフィクションだということがしっかりと告げられているならば、許される」という条件があることを共有しました。
今回の哲学対話カフェの振り返り
対話の後半では「VRで再現されるのが愛犬であれば、それは許されるか?」などの思考実験も提示されました。このように今回は「思考実験」という哲学的スキルを体感していただくことを通して、概念や理由の整理を進めていきました。その意味で、単なる雑談や思いつきといったレベルのものとは異なる、一定の秩序をもった質の高い対話ができたように思います。こうした哲学的スキルを体感できる場として哲学対話カフェをより洗練させていくことを今後も目指します。
また、参加していただいた方々からは「とても面白かった!」といった意見をたくさんいただきました。全員参加型の哲学対話カフェはなんといっても参加者の方々が楽しくなければならないと思います。そして、このように、最新の科学技術をめぐる問題についての疑問をまず言葉にしてみることが、今後その科学技術について知ろうとする契機となることが期待されます。それは一方向的なアウトリーチ活動とも、また双方向的な対話とも異なる対話の場として位置づけることができるかもしれません。
今回はCoSTEPでは二回目の哲学対話カフェ、そして初のオフラインでの哲学対話カフェでした。わざわざご来場いただいた皆さんには感謝でいっぱいです! ご参加いただいた皆様ありがとうございました!