実践+発信

JJSC26 アドバイザーコメント

2020.4.16

JJSCでは外部のご意見を頂き、編集方針等を改善していくため、アドバイザー制度を設けています。第26号に掲載の論考についてアドバイザーから、コメントをいただきました。公開の許可を頂いたコメントについて公開いたします。

吉澤 剛 オスロ都市大学 労働研究所 リサーチフェロー

  1. 掲載原稿の内容について
    長谷川報告について、学生プロジェクトチームによる科学技術コミュニケーション活動として、幅広い年齢層を対象とした活動を紹介しており、正課外で実施する意義についても非常に首肯できるものでした。ただ、報告者がこれまで他誌などに発表してきた内容に最新の活動報告を加えた体裁にも見えてしまうので、最近の新たな気づきなど、もう少し新規性があるとよかったです。愉らの報告は、先進的な研究を行う大学院生が小中学生を対象にしたアウトリーチ活動の紹介をしているもので、活動内容やアンケート結果の説明がわかりやすく書かれて読みやすかったです。せっかく実施者全員が執筆しているので、自然科学的な論文スタイルにとどまらず、自分自身も対象化して、どのような気づきを得たか、自分の考え方や研究スタイルなどにどのような影響があったかについての分析も読んでみたかったです。吉澤報告では、アリの観察体験も交えたサイエンスカフェを報告しており、単に講師の話を聞いて自由に話し合うよりも深いワークショップとなっていたように見受けられます。観察体験に加え、老若男女が一堂に会する場の運営は難しかったと思われますが、参加者のコメントを含め、イベントの雰囲気がよく伝わってきました。吉村らの報告はヒアリを含めたアリの同定を目指すワークショップとして、社会問題解決と環境学習、エンターテイメントのバランスを考慮したプログラムのデザインが興味深かったです。特に主催者からの要望に伴うプログラムの変遷が図示されており、寸劇の導入など他のコミュニケーターの実務にとっても参考となる工夫が盛り込まれていたと思います。
  2. 掲載原稿のカテゴリー(論文、報告、ノート)について
    前号に引き続き、本号にも論文が掲載されなかったのは寂しい限りです。報告、ノートのカテゴリーについて異存はありません。エディトリアルないし編集後記の設置は今後の検討に期待するとして、より踏み込んで、アドバイザーのコメントも反映させながら、常時、いくつかの特集号となるテーマをオンライン募集しておくことも、幅広い執筆者の関心を惹くために必要ではないでしょうか。
  3. 掲載原稿の著者について(分布等)
    特にコメントはありません。
  4.  装丁(印刷物)
    特にコメントはありません。
  5. 編集体制・投稿規定・執筆要領について
    査読意見が割れている原稿について、英文雑誌アソシエイト・エディターの経験からしても、なかなかクリアな対応策があるわけではありません。ただし、一つの方策としては、3番目の査読者を加えたり、査読者の1人を差し替えたりということで、編集委員会の方針に沿って査読者を選定し直すというプロセスがありえます。これは、査読プロセスについての規定を変更するだけですみますが、より実質的な問題としては、編集委員会内の意思統一が適切に図られるかどうか、辞退される査読者とのコミュニケーションや関係性が円滑に保たれるかどうか、でしょうか。
    報告やノートは学術的価値の弱さという反面、ある程度の速報性が求められると考えていますが、投稿と刊行との間が非常に空いている原稿も少なくないため、これらのカテゴリーの役割をもう一度考え直す必要があると思います。特に「報告」は、本当に査読が必要なのでしょうか。数名の編集委員による閲読によって、内容に相当問題があると判断されたもの以外は、速やかに公開しても構わないのではないかと考えます。次号から3ヶ月区切りで採録論考をオンラインでアップするという改善策は大変歓迎しますので、あわせて査読方針も見直していただければと思います。
  6. その他
    今号でアドバイザーとしての提言は最後となります。科学技術コミュニケーションのみならず、学術界を取り巻く環境全般が激変している昨今、学術誌のあり方はどうあるべきか、より活気のある学術誌に向けて、これからも積極的に取り組んでいただければと思います。これまでのコメントに対して真摯に応答してくださってどうもありがとうございました。

(2020/4/2)

東島 仁 千葉大学 准教授

  1. 実践報告と論文、ノートの差が、よく分からなくなってきました。
    (具体的に)

    • 「論文」「報告」「ノート」というカテゴリがあり、編集方針によると、「学術研究論文だけではなく,実践活動の共有に寄与する報告・ノートの投稿も歓迎」ということなのですが、査読基準の有用性、相対性、新規性、信頼性の重み付けを変化させる、あるいは現在の有用性を別のカテゴリ名にして、有用性=現場の実践者にとっての有益さ、応用可能性等に変えてみる?等もありかもしれません。特に、論文と報告の差をもう少しはっきりさせ、査読方針の差を明確になさると良いような気がしています(いずれの場合も、一度目の査読時の指摘事項のみをチェックする等の査読の原則は変えない方が良いと思いますが・・・ただ、そういう査読の基本事項自体が現状の査読規程には盛り込まれていないため、延々とやり取りが生じる可能性が高くなったり、あるいは査読者がどこまで厳しく、あるいは幅広い目で査読を行えば良いのか混乱する側面があると思います)。
    • 実践報告と論文を医学系の症例報告と原著論文の差ぐらい明確に分けて、場合によってはノートは投稿も受け付けるが一定数の依頼原稿を常に載せる、等の形にすると、読み手に取って面白そうな気がします。
    • 実践報告と論文の区別をもっと明確にすると、読み手にとっても分かりやすく、投稿する側も、また査読する側にとっても分かりやすいかもしれません。(投稿者や査読者としての経験も踏まえてお書きすると)現在の査読過程ですと、「科学技術コミュニケーションの発展に寄与する幅広い知見を蓄積するために,様々な分野やトピック,手法を扱った原稿を歓迎する。したがって,様々な分野の研究者や多様な立場をもつ実践家を想定し,専門外の読者でも内容と意義を理解できるように原稿を記述することを投稿者に求める」というのが、査読者の査読レベルで実現できているのかどうかよく分かりません。ですので、ノートで多様な分野の招待原稿を増やすことで、多様な分野の読者層獲得もできるかもしれないな、とか。
  2. 投稿者にとってメリットが少ない?
    • オープンアクセスで、査読もしっかりしており、良い論文が載った面白い雑誌であるとは思うのですが、サイエンスコミュニケーション周辺領域の方にとっての投稿先としての魅力が低いのではないかと思っています。(つまり、たとえば生命倫理系やリスクコミュニケーションのかたが、貴誌を投稿先候補として考えた際のメリットが少ないのではないかと・・・もったいない・・・)この一年くらい理由を色々考えていたのですが、解決策としては、たとえば賞を作って年に1度発表してはどうでしょうか?学会の賞ではないですし、誰がどう審査するのかという問題はありますが(でも逆に可能性が色々あるので低負担でうまくいくシステムもできるかも?)、受賞歴はあとあと投稿者にとってもプラスに働きますし・・・。

(2020/4/8)

2020年4月16日