実践+発信

[芸術祭選択実習10] 坂田太郎 | データ絵筆、見えない雪の手触り

2021.3.15


SIAF2020ドキュメント、SCARTSモールCで開催されたさっぽろウインターチェンジ 2021「Extreme Data Logger」を鑑賞しました。広い空間で白を基調に構成された展示物は、荒涼としながらも美しい極地の風景を直接的にイメージさせます。

展示されている様々なデータロガー。 この裏は除雪された雪塊を模した発泡スチロール彫刻になっている。

成層圏の大気状態データを収集する気球に取り付けられるセンサー類。白いスチロール球体に収められる。

副題に「都市と自然の記憶」とあることからも分かる通り、現代的な観測機器を使い収集された情報を、アートの文脈で再構成する試みは、第一回のSIAF2014で提示されていたコンセプト「都市と自然」を想起させます。今回の展示自体の表現も、真鍋大度+坂本龍一《センシング・ストリームズ—不可視・不聴—》に近いと感じました。《センシング・ストリームズ》は、モエレ沼公園会場内に設置されたアンテナが、携帯電話やWiFiなど、周囲に飛んでいる電磁波をキャッチして、グラフィックと音楽に変換し、大型モニタに投影する、というものです。その場にありながら肉体的に知覚できないデータを収集し、アート作品として可視化してみせる。Extreme Data Loggerは、SIAF2014でぼんやり感じていた作家の着想を、より明確に意識する復習のように感じました。


Extreme Data Loggerの展示。
膝上ほどの高さに名刺大のセンサーが並び、奥の壁面ディスプレイに繋がっている。
センサー群の上には中谷宇吉郎氏の言葉が刻まれている。


一連の作品群の中で印象的だったのは、東側壁に展開された「雪と距離についての習作」でした。一列に配置された超音波センサーが、その前を遮る鑑賞者との距離を測り、そのデータはディスプレイの中でいく筋ものストライプとなって、雪のように降り続いていきます。センサーの前に手をかざすと、ストライプの動きは一層激しくなり、掌には微かなパルスを感じることができます。自分の行為がリアルタイムで可視化されると同時に、掌には目に見えない身体的反応が返って来る。このダイレクトなコミュニケーションは、センシング・ストリームズには見られなかった新たな表現と言えるかもしれません。


成層圏まで昇る観測気球。上空では大気の薄さからこの数倍の大きさに膨らむ。


デーロガー展示の背面にある雪塊の彫刻。実際の雪を3Dスキャンして作られる。

学術調査と現代アートの交差する領域、「観測」を芸術として捉え直す行為はSIAFラボのこれまでの活動に通底するテーマですが、同時にその観測データを従来の用途から解放し、絵筆として北の街の風景を描いてみる。一見無為な、ともすれば冒涜とも取られかねない過激な手法こそが「Extreme」の言葉を冠した所以なのだ。いや学術研究もまた、そのデータを科学の手法でもって、今までずっと世界の成り立ちを描き続けてきたのだ、と思い至りました。


天井近くまで伸び上がる観測気球を見上げ、細かいボリゴンで象られた発泡スチロールの雪塊を撫でながら、次回は再び、大勢の監修の前に大きな札幌の街を描いて見せて欲しいと願わずにはおられませんでした。