2021年2月26日(金)、27日(土)に開催された、対話の場の創造実習(以下、対話班)主催「ヤマメシが教えてくれること~世界をちょっと良くする選択肢~」(以下、ヤマメシイベント)。
私、16期本科・アート&実習受講生である若狹は、チラシの作成および参加者の方に送付するキットのデザインを担当しました。2020年の年の瀬に始まったデザイン作業。ここから山頂までの長い旅が始まります。
若狭遥(本科 アート&デザイン実習 / 大学院生)
ヤマメシイベント、デザイン作業スタート!
対話班とデザイン班の初回ミーティングは、2020年12月下旬。
対話班からは、イベントのテーマと大まかな流れを共有してもらいました。
この時に私は初めて「ヤマメシ」というものの存在を知りました。
対話班からはチラシに求める目標も共有されました。
- チラシを見て、サイエンスに興味のない人にもイベントに参加してもらえるようにしたい。
- チラシから山の雰囲気を感じられるようにしたい。
- チラシを思わず手に取ってしまうようなデザインにしたい。
- 対話班の片岡さんのバイト先(アウトドアショップ)に置きたい。
これらの情報をもとに、私は、『ヤマメシ』とはなにか調査し、デザインの大まかなイメージを考え始めました。
ヤマメシとはなにか。情報収集
私はヤマメシに関して無知であったため、ヤマメシについてインターネットやインスタグラムで検索し、情報を集めました。
調査の結果、ヤマメシについて以下のようにまとめました。
- ヤマメシは、山頂で作るため、持ち運べる材料や道具、使える燃料や水の量に限りがあること。
- ヤマメシは、「映え」の要素が重要であること。
- ヤマメシは、場所も自由であること。山頂だけでなく、おうちキャンプでも楽しめる。
調査する中で、私の中でぼやっとしたヤマメシのイメージは出てきました。
デザインの大まかなイメージを決める
チラシの大まかなイメージを作成するため、まずはピンタレストで「キャンプ」や「グランピング」を検索しました。
イラストや写真を見て、自分の中のイメージを膨らませました。用いたいモチーフ、キーカラーなど「こんなデザインがいいのかな」と自分の中で考えをまとめました。そして、ふたつの案を対話班に提案しました。
A案「リュック」では、「リュックに入るぶんの材料、食材=限られた条件で楽しむ」という意図がありました。山頂からの風景の写真を用いることで、対話班の要望にあった「山の雰囲気」が感じられるようにしたいという思いがありました。「山という限られた条件下で、工夫して飯を食う楽しさ」を表現し、「工夫次第で『ちょうどいい選択』につなげることができる」という意図を伝えたいと考えていました。
B案「メシメイン」では、ヤマメシを押し出すデザインを考えていました。また、山だけでなくおうちキャンプのように工夫次第でさまざまな場所で自分なりの楽しみ方ができるということを伝えたいと考えていました。「ヤマメシやアウトドアを日常の中で楽しむ」ことをチラシで表現し、「『ちょうどいい選択』をより身近なものとしてとらえてもらいたい」という意図がありました。
また、朴先生からのアドバイスで、この段階でキットの案についても提案しました。
A案のキットでは、リュックに入るぶんの食材や道具から、「小さくたたむ」というイメージで、リュック型のキットや飛び出す絵本を提案しました。
B案のキットでは、意外なものを重ねる(山×飯、簡単調理×おいしい、おうち×キャンプ)と、「映える」ということから、アイコン風の食材カードやめくると場面が変わるパンフレットを提案しました。
チラシのA案とB案をさらに具体的なイメージに落とし込み、対話班へと提案することになりました。
具体的イメージ提案
対話班にチラシの具体的なイメージを提案するため、A案「リュック」とB案「メシメイン」を自分なりに工夫してIllustratorに落とし込んでみました。
A案は、山と登山者の画像に手書きの道具を配置しています。山や登山者の画像は持ち合わせていなかったので、インターネットのもので代用していました。手書きのイラストは個人的にお気に入りでした。
B案は、実家にあった食器をなんとか配置し、イメージだけでもつかんでもらおうと考えていました。
ちなみに、食器の配置は何パターンか用意していました。写真撮影は難易度が高い。
以上2案を対話班に提案したところ、以下のようなフィードバックをもらいました。「A案では『ヤマメシ』の雰囲気が足りない気がする。B案のようにヤマメシを押し出し、かつB案にもう少し山の雰囲気が欲しい。」これを踏まえて、B案「メシメイン」を軸に、「山らしさ」を出すことになりました。
ヤマメシ撮影会①
ヤマメシメインのチラシを作成するため、朴先生と一緒に実際にヤマメシを作り、撮影会をしました。
ヤマメシづくりに必要な食材を切っている様子です。撮影に用いる食材は、「大きさをそろえて切ること」、「器の大きさに合わせて切ること」、「すべて食材を用意してから撮影を始めること」が大切らしいです。大雑把な私には、食材を切ることすら難しかったです…!
氷点下の屋外で朴先生と一緒にヤマメシづくり&撮影スタートです。冷え冷えの手で食材を配置しようとしています。
実際にヤマメシづくりを体験することで、ヤマメシの持つ「工夫する楽しさ」をなんとなく感じた気がします。
チラシ提案版作成
撮影後、対話班に提案するチラシを作成しました。
この時は、チラシ2案×画像2枚の計4パターンを提案しました。
A案では、明るく幅広い世代に興味を持ってもらえるデザインを目指しました。そのため、写真は山らしいくっきりした感じと暖かさを感じられるものにしたいと考えていました。また、キーカラーは食べ物の温かさを感じられるようにしたいと考え、イエローにしました。
B案では、小説風のイメージで作っていました。チラシ内に含まれる縦線は、原稿用紙の縦の線を表現しています。また、写真は落ち着いた雰囲気があり、かつ湯気がよく見えるようにして食べ物の温かさを感じられるように意識していました。
(この4パターンを作成している段階が、チラシ作成中で一番苦しいときでした。
参考にできるチラシや資料はあるけれど、今回はどんなイメージで、何を目指して作ったらいいのか…。
目標にしている地点がわからず、不安の中で作成していました。)
以上、4つのチラシを対話班に提案したところ、
「A案は、アウトドアショップに置くのにあっている」
「やわらかい雰囲気で、親しみやすさを感じ、手に取りやすい」
「B案は、少しかたい雰囲気で敷居が高そう」
「アウトドアショップに置くには珍しいデザインなので、目立ちそう」
というフィードバックをもらいました。
全体として、
「いい意味で、いつものCoSTEPのチラシとは違う雰囲気を感じる」
「思わず撮りたくなる要素のある写真を使ってほしい」
というフィードバックをいただきました。
このフィードバックを参考にしながら、対話班と一緒にヤマメシの再撮影およびデザインの練り直しを行いました。
ヤマメシ撮影会②
さらなる「ヤマメシにおける映え」を求め、再撮影を行いました。今回は、対話班の片岡さん(ヤマメシリーダー)、松橋さん、梶井先生を含め5人で作業を行いました。
片岡さん監修のヤマメシを撮影してくださっている朴先生です。片岡さんのヤマメシを見て、初めて「ヤマメシにおける映え」を認識しました。やはり経験者と一緒にやってみて、肌感覚をつかむのはいいですね。
チラシ再提案
改めて撮影した写真を用いて、練り直したチラシを提案しました。
A案
B案
前回提案したA案、B案をもとに、
・ポップで親しみやすく、参加しやすい雰囲気
・キーカラーや写真の加工から温かさを出すように
・アイコンを山×メスティンにしてわかりやすく
また、特にB案ではサブタイトルを吹き出しに入れることでより親しみやすさを表現できていると思います。
アイコンには、ヤマメシの道具であるメスティンに雪山が乗っています。
対話班からのフィードバックとして、以下のフィードバックをもらいました。
B案では「ヤマメシの美味しさが一層伝わる感じ、サブタイトルのポップさや映え感もイベントイメージとして良い」、「企画に対して思い描いていたイメージに近いデザインである」。
A案については、「B案と比べると、タイトルの背景が白になっていて、寂しさのようなものを感じる」、「フォントや構図が、市販のヤマメシの本の表紙と近い印象がする。せっかくなので今回はB案で試してみたいなあ。」。
結果、B案ナポリタンのチラシで決定しました! チラシ完成まであと少し…!
チラシブラッシュアップ
B案ナポリタンのチラシを「ポップさ、映え感」を意識し、さらにブラッシュアップしました。
チラシの意図は、
・キーカラーは変わらず、イエローで明るさ、あたたかみを出しています。
・丸、吹き出しの点線のあしらいは、雪の上を歩く足跡や連なってヤマを登る登山者の列をイメージ(→片岡さん「地図の等高線も点線だね」)
・ロゴはヤマとメシをあらわす。浅いクッカーに雪の積もったヤマが入っている。=通称メシヤマ
・サブタイトルはヤマメシから吹き出しが出ている。つまり、ヤマメシが教えてくれたこと(=世界をちょっとよくする選択肢)
・タイトルの四角は紙面からはみ出させることで、紙面の外まで広がりを表現
この段階で、チラシの裏面も提案しました。
裏面では、山のアップダウンと当日の行程表を対応させました。また、山の周辺には当初のデザイン案で提案していた手書きのイラストを活用しています。
とうとうチラシ完成!
さらに微修正をし、ついにチラシが完成しました。
大変長い道のりのようでいて、実は最初のミーティングから入稿までは20日間ほど。怒涛の20日間であったといって過言ではないでしょう。
ヤマメシが何たるかすら、知らない状態からスタートしたチラシ作成。初めてのデザイン、慣れないIllustratorとの格闘。対話班がイベントに対して持っているイメージをくみ取れず、なかなか形にできないもどかしさ。そんな中でも、朴先生と二人三脚でなんとかチラシ完成までこぎつけました。
Facebookバナー、学内掲示用ポスター作成
さらに、作成したチラシをもとに、Facebookバナーと学内掲示用のポスターを作成しました。
Facebookバナーで意識した点は、
- 参加するために必要な情報が一目でわかるような、情報の選択・配置
- どのデバイスでも違和感なく見ることができること(Facebookバナーはスマートフォンで見るか、パソコンで見るかによって表示される面積が異なるようです)
- 縦長の写真を用いているため、横向きの画像を作る際に画像と余白の配置を変更
学内掲示用ポスターで意識した点は、開催日程や申込方法が一目でわかるようにすることです。
チラシ作成全体を通して学んだこと
“デザインは体を動かしてつくる”
ヤマメシを知らないところから始まったデザイン作業ですが、「まず調べること」の重要性を感じました。私は基本的にめんどくさがりですので、「知らない~やったことないからできない~」というタイプです。そんな私ですが、少しやる気を出して調べると、ちょっと世界が広がる感覚がありました。
さらに、本屋に行く、山に登る(ヤマメシは作っていませんが、元旦に登山しました)、アウトドアショップ行く、実際にヤマメシ作り、撮影する…。このように、実際に行動することで初めて、「文字で調べただけでは決して感じることのできない『雰囲気』」をつかみ取り、デザイン案が変化し、いい方向に向かっていった気がしました。
”チラシを作るときには、お互いのイメージを出し合うのが大切”
当初は、ヤマメシのイメージがいまいちつかめておらず、「山らしさってなんだ?ヤマメシにおける映えってなんだ?」と疑問を抱えながらデザイン作業を進めていました。そんな中でも、デザイン案を対話班に提示し、言葉としてフィードバックをもらうことで徐々にイメージが変化していきました。お互いの思っていることを言語化して伝えようとすることの大切さを感じました。
これで、ヤマメシイベントのチラシデザイン作業編は終了です。後編、ヤマメシイベントのキット作成もお楽しみに!