森田 亜由美(2021年度選科/社会人)
モジュール2第3回目の講義は、科学ジャーナリストの内村直之先生による「サイエンスライティングの基礎」でした。科学技術に関する文章を誰にでもわかるように書くにはどうしたら良いのでしょうか。第一線で長きにわたりご活躍されている内村先生から、実例を用いた演習を交えながらそのコツを教えていただきました。
はじめに
そもそも文章を書くことの特徴は何でしょうか。その特徴を図・イラスト・写真と比較して考えていきました。図・イラスト・写真は一般的に一目でわかりやすいですが、いざそれを人に伝えるとなると難しさが生じやすいものです。一方、文章は自由自在に変形しうるものであり、いったん読んで理解すればその内容を人に伝えやすいです。そして、いくらでも精密に対象を描写でき、抽象的にポイントを指摘することもできます。このことから、文章は「汎用性・機能性の高い優れた道具」だということがわかります。
私たちは普段、日記のような、自分で書いたものを読み返すことで、忘れかけていたことを思い返すことができます。書くという具体的な行動をすることで泡のような思考を捕まえ、忘れやすい思考に結びつけていくことが可能となるのです。つまり、「書くことは考えること、考えることは書くこと」だと内村先生はおっしゃいました。加えて、「とにかくまずは書いてみる、書いてみないと書けるようにならない」と強調されました。では、実際にどのように書き進めたらよいか、そのコツをみていきます。
読んで気づいて直す
書いたものをあとから読み返してみると何を言いたいのかわかりにくかった、読み手にうまく伝わらなかったという経験をされたことがある方も多いと思います。それは、自分では考えて書いているのでわかったつもり・書いているつもりになっていることも多いからです。しかし、他人は「自分が書いていないものは見えない」のです。「他人を見る力は自分を見る力の10倍以上」と先生はおっしゃいました。そこで、レポートの文例を実際に直す作業を行いながら、わかりやすい文章について確認していきました。まず、読んでみて一つ一つの文の意味することがすっと頭に入ってくるか。そして、文と文の関係は適切か。他にも論理の流れ、書き出しや結論などにも注目しながら文章を直していきました。自分で見る場合、書いたものは2・3日おいてからまた読んでみることもオススメされていました。
ピントの合った文章を書く
文章を書く上では、1つ1つの文の「ピント」を合わせることが必要だそうです。では「ピント」の合った文章とはどんなものでしょうか。言うべきことや言いたいことを正確に伝えられていれば「ピント」が合った文になります。講義ではピントの合っていない文例を取り上げ、「ピント」の合った文に改善するコツをご教授いただきました。主語と述語が対応しているか、助詞(てにをは)の用法は合っているかなど基本的なことも忘れてはいけません。そして、読んでいて感じる「違和感」も大切であり、書かれた意図を考えながら直すことで「ピント」が合ってくるとおっしゃいました。それにはやはり量と回数を重ねる必要があるそうです。
わかりやすい・わかる説明とは何か
まず、わかる・理解するとは何でしょうか。理解の方法にはいろいろあります。因果関係を知ることで理解に繋がることもあれば、その構造を知ることで理解が促されることもあります。サイエンスライティングにおいて「説明」は最も基本となるそうです。その際、対象とする相手や目的の違いを意識することが大切だとお話されました。例えば「細胞」という言葉は、「広辞苑」、「大百科事典」、「岩波生物学辞典」ではそれぞれ説明のされ方が違っています。それは対象や目的が違うからです。このように実例を挙げたり、何かに例えたりするなどの方法も効果的に使用していくことがわかりやすい説明につながっていきます。
そして、もっとも基本となるのは他人とわかり合うための「定義」の重要さだと言います。「定義」のはっきりしないことばを振り回すのは誤解しか生まないと強調されました。
科学を伝える
サイエンスライティングは専門家と非専門家をつなぐ役割を果たします。近年の情報公開の流れの中で、専門家と非専門家との間での直接的なやりとりの機会が増えていくと予想されます。その際に専門的な内容をそのまま伝えてしまうと、一般的には非専門家にとっては理解しづらいものになります。そこで、専門家は知識や情報を正確にかつわかりやすく伝えることが求められます。しかし、正確さにばかりこだわるとわかりやすさが損なわれる場合もあるといいます。そこには正確さとわかりやすさを共存させることの難しさがありますが、私たちは試行錯誤しながらそのギャップを埋めていく必要があります。また、科学技術は日進月歩の世界であり、その最新成果に驚くばかりでなく、これまでの流れでどのような位置づけなのか、何が新しい知見なのかなどをきちんと伝えることも大切であるとまとめられました。
おわりに
書くことは誰でも経験したことがありますが、わかりやすく書くことは一朝一夕には身につきません。内村先生は、経験を積むことの大切さを強調され、自分の頭と手を動かし書く機会を積極的に作っていくことがライティングスキルを高めるコツだとお話しされていました。そして、自習用に様々な練習問題を提供していただきました。それらを活用して集中演習に向けて精進したいと思います。このレポートも貴重な実践の場となりました。内村先生、ありがとうございました。