実践+発信

津田一郎先生からの回答(前半)52サイエンスカフェ札幌

2010.11.16

7月24日に開催された第52回サイエンス・カフェ札幌のゲストの津田一郎先生が、

参加者の方々から当日出されたコミュニケーションカードにご回答くださいました。

すべての質問に丁寧に答えてくださった津田先生に、

感謝いたします。
 

以下、ご回答を掲載いたしますので、どうぞご覧ください。

※「問」の文をクリックすると、その回答に移動します。

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第52回サイエンス・カフェ札幌

「コミュニケーションする脳!? 〜脳をカオスで語る〜」

コミュニケーションカード一問一答(前半)

 
回答:津田一郎先生(北海道大学電子科学研究所教授)

  ※後半部(問23〜問44に対するご回答)はこちら
 

問1
意識的または無意識どちらでもミラーニューロンは働くのか?

問2
2-1. あくびがうつることはミラーニューロンと関係するか?(脚を組むことも)
2-2. あくびはミラーニューロンの働きか。一緒にいる人があくびをするとあくびがうつるー酵素濃度が低いと判断してあくびをすると聞いたことがあるが
2-3. ミラーニューロンが働く範囲は?人、猫、生物以外も?

問3
3-1. イカとヒトの動画の違いは性質の違いによるものなのか?
3-2. 人の脳の動画がカオス的になるのはどういうメカニズムによるのか?

問4
共感とはどういう事なのか?
お互いイメージしていることが同じかどうかは厳密にはわからないのでは?
だとしたら、お互いが分かり合えた、共感のイメージを持ったと思ったら、それは共感してたということなのか?そして、脳波が同期することがあるのは上記のようなことなのか?
あとでもっと話してみたら、実は分かりあえていなかったというときでも、分かり合えたと思っていたときに脳波が同期しているのか?

問5
心=脳というお話がありましたが、心に強いストレスを受け続けた場合、脳に障害が出てしまうのですか?
また、治療などでその心が元気になった場合、一度傷ついた脳は回復しますか?

問6
外からの電気的な刺激で人の行動や感情に方向付けできる?他にも方向付けできる刺激はある?

問7
7-1. コミュニケーション場面以外で、脳波と感情の対応関係が認められる例はありますか?
7-2. 脳波を見れば、言葉がなくても相手をどう思っているかわかるのでしょうか?
7-3. 現在の脳科学では脳波を測定することによって、人の思考がどの程度わかるのか?例えば、喜怒哀楽など。もし、上記のように脳波測定によって、感情などがわかるならば動物や虫などの感情も理解出来ないのか?
7-4. コミュニケーションの最中に、脳波が同期するお話があったが、この人の脳の動きを使えば、人と人は言葉を使わず、互いに理解することが可能でしょうか?

問8
スポーツ選手等がリラックスするときにある脳波を出せるように自分をコントロールするという話を聞いたことがありますが任意の波長の脳波を意識的に出すことはどこまで可能なのですか?

問9
デジャブ(正夢)というのは、ただの勘違いなのでしょうか?

問10
脳波について: 喧嘩をしているときはコミュニケーションが活発になっていると思うのですが、脳波はどのようになっているのでしょうか?

問11
認知症になる人とならない人は脳のどの部分に関係がありますか?

問12
人間と猫の脳は前頭葉の有無しか違いがないため、猫は人間の情緒を察知すると読んだことがあるのですが本当ですか?

問13
ミラーニューロンが働くのは視覚や聴覚の情報に対してだけですか? 記憶や夢のなかの体験(作られた情報)に対してはどうですか?

問14
脳を切り取って、生きている手術で、死亡との違いは?

問15
脳活動の何を数理科学しているのか?

問16
激しいカオスとは何か?

問17
カオスを(数学的に)定義することはできているか?

問18
カオスを分類・類別できるか?

問19
今、正直頭がカオスです。脳で餅つき? どういう点ですか?

問20
20-1. ”天才”は存在するか?
20-2. 他より卓越している人間は脳の構造が違うのか?それとも学習方法(努力)?

問21
天才と呼ばれる人たちも、ミラーニューロンが働いているのか?僕が考えるに、そういう人たちは”先天的に”何が与えられるものがあって、うまい人の真似をしなくても(ミラーニューロンが働かなくても)できるのではないか?

問22
”興味”はどこからくるか?また脳の構造に関係しているか?

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問1
意識的または無意識どちらでもミラーニューロンは働くのか?

回答1
ミラーニューロンは意識的な運動(随意運動)に対して働くと言われています。

問2
2-1. あくびがうつることはミラーニューロンと関係するか?(脚を組むことも)
2-2. あくびはミラーニューロンの働きか。一緒にいる人があくびをするとあくびがうつるー酵素濃度が低いと判断してあくびをすると聞いたことがあるが…
2-3. ミラーニューロンが働く範囲は?人、猫、生物以外も?

回答2
これは人によって意見が分かれるようです。カフェ終了後に、自閉症児ではあくびの伝染が少ないという報告(2007年)があるのであくびは認知的な活動、特に感情移入に関係するのではないかという説があることを教えてくれた人がいましたが、私の知り合いのアメリカ人の脳科学者もこの説に近いことを2000年前後に言っていました。しかし、認知とのかかわりに関しては不明なことが多く、現在ではまだ一つの説にすぎません。また、誰かがあくびをするとその周りの酸素が不足しそれであくびが誘発されるという説もあります。あくびの伝染は哺乳動物(犬や猫を観察してください)の他には爬虫類や鳥類でも観察されています。いずれにせよ、あくびは意識的な行為のマネとは考えにくいと思われますので、ミラーニューロンとは直接的な関係はないだろうと私は考えています。感情調節に関係する神経伝達物質であるドーパミンやアセチルコリンがあくびと関係するという報告がありますので、自閉症児に関する報告はこれら神経伝達物質の異常と関係するかもしれませんが、これも単に推測の域を出ません。
むしろ脚を組むことの伝染は意識的なマネとして働く場合はミラーニューロンと関係があるかもしれませんね。

問3
3-1. イカとヒトの動画の違いは性質の違いによるものなのか?
3-2. 人の脳の動画がカオス的になるのはどういうメカニズムによるのか?

回答3
この違いはそれぞれの神経回路網(ニューラルネット)を構成している個々の神経細胞(ニューロン)の性質の違いから来ています。この性質の違いはニューロンにあるイオンチャンネルの種類の違いに依っています。これを数学的に定式化するとニューロンの方程式に違いが出てきます。さらにこの違いは方程式の解の変化(分岐と言います)の違いをもたらします。つまり、方程式の違い、分岐の違いがイカとヒトの動画の違いになって表れているのです。ヒトの場合は数学的にはサドル・ノード分岐とホップ分岐が絡み合うことでカオスが生成されます。直感的に言うと、神経細胞の活動状態(電位)が振動状態になり、その振動の位相が大きな幅で変動することで振動の位相だけでなく振幅までもが不規則に変化するようになってカオスが発生するのです。

問4
共感とはどういう事なのか?
お互いイメージしていることが同じかどうかは厳密にはわからないのでは?
だとしたら、お互いが分かり合えた、共感のイメージを持ったと思ったら、それは共感してたということなのか?そして、脳波が同期することがあるのは上記のようなことなのか?
あとでもっと話してみたら、実は分かりあえていなかったというときでも、分かり合えたと思っていたときに脳波が同期しているのか?

回答4
共感するとは、お互いの意味構造に一致する部分を見いだせることではないかと思います。誤解と言うのも相互理解、共感にとって大事な機能です。誤解、つまりずれを見出すことではじめて何が同じなのかが分かるという側面があるからです。脳波の同期に関しては、今調べているところなので確定的なことは言えませんが、我々の新学術領域「伝達創成機構」と言うプロジェクトでは、共感を覚えたときに(たとえそれが後で誤解と分かったことであっても)脳波のある周波数帯域が同期するという作業仮説のもとに研究を行っています。人は異なったものでも上位概念を持ち出して同じクラスにいれてしまって同一視します。つまり、違うものを同じだと思える能力を持っています。また、同時に同じものだと思っていたものに違いを見出すこともできます。この二つの能力があって理解が深まっていきます。共感と誤解についてもこれと類似の関係があります。

問5
心=脳というお話がありましたが、心に強いストレスを受け続けた場合、脳に障害が出てしまうのですか?
また、治療などでその心が元気になった場合、一度傷ついた脳は回復しますか?

回答5
心に強いストレスを受けた場合、何らかの変化が脳に起きると考えられています。それはぱっと見てすぐにわかるような変化ではないことが多いようです。ストレスを受けなくとも脳は常に変化しています。代謝レベルでは常に物質の交代があります。RNAも変化していきます。合成されたたんぱく質のレベルでも変化がおこります。さらには、ニューロン間の結合(シナプスと言います)の度合いが変化します。すると、神経回路網の構造が変化します。新しいニューロンも生まれてこのネットワークに参加します。するとまた、神経回路網が変化します。使われるシナプスは強くなり、使われないシナプスは弱くなっていきます。つまり神経回路網は常に変化しているのです。脳は構造としては神経回路網であり、そこで電気信号が行き交い化学物質が反応して情報処理を行っています。こういった状態で強い一定のストレスを受ければ、脳は特殊な変化をし始めると考えられます。また、脳は修復能力を持っています。脳の構造そのものが完全に元と同じということは日常的にもありえませんから、上の意味で心が癒えたあとに脳が物質の集合体として完全に元に戻ることは論理的にはありえません。しかし、機能は元に戻るのです。機能を回復させるために脳は構造的な変化を自ら起こしているのです。心=脳という言い方の意味するところは、脳の動的なプロセスが機能であり、脳の機能を我々は心と呼んでいるということです。私は個人的には数学が心と呼ばれているものを最もよく表現していると思っています。数学は人の心の動きそのものなのです。数の概念も意識と記憶の相互作用によって生まれるのです。

問6
外からの電気的な刺激で人の行動や感情に方向付けできる?他にも方向付けできる刺激はある?

回答6
Neuroprosthesis (神経機能代替)という方法は人工網膜のように神経の一部を機械で置き換えてその機能を代替させるのですが、これがうまくいくためには神経細胞の信号がどのような情報を担っているかという符号化の問題が解決されていなくてはなりません。人工網膜はまだ実用化にまでは至っていません。この方法がうまくいけば、外部刺激によって脳機能の回復が可能になります。USAやドイツなどでは、電極を脳に埋め込んで外部から電気信号を流し、脳を直接刺激して神経伝達物質の放出量を制御し、病気の症状を抑えるという方法も実践されています。たとえば、パーキンソン病から来る手の震えなどをこういった方法で抑えることが試みられています。

問7
7-1. コミュニケーション場面以外で、脳波と感情の対応関係が認められる例はありますか?
7-2. 脳波を見れば、言葉がなくても相手をどう思っているかわかるのでしょうか?
7-3. 現在の脳科学では脳波を測定することによって、人の思考がどの程度わかるのか?例えば、喜怒哀楽など。もし、上記のように脳波測定によって、感情などがわかるならば動物や虫などの感情も理解出来ないのか?
7-4. コミュニケーションの最中に、脳波が同期するお話があったが、この人の脳の動きを使えば、人と人は言葉を使わず、互いに理解することが可能でしょうか?

回答7
人の思念を脳波で測定しそれを解析することで外部の機械などを思った通りに制御する方法が開発されています。BMI (Brain-Machine Interface) と呼んでいます。昔に比べて脳波測定も精密化し、脳波の様々なパターンが人の思念や感情と関係づけられるようになってきました。言葉を発声しなくても思っているだけでそれを相手に伝えることもこの技術を使うことで可能になると考えられます。テレパシーを科学的に行う方法はすでに開発されつつあるのです。動物や虫の脳活動に対して同じ手法はある程度使えるかもしれません。ただし、他の動物や虫の場合はその脳活動が彼らのどのような感情と対応するのかを知る手だては限定されます。つまり、行動と直結したものしか対応はつけられません。人は自分が今どんな気持ちかを言葉で表現できるので、感情と脳波の直接対応が可能になるのです。

問8
スポーツ選手等がリラックスするときにある脳波を出せるように自分をコントロールするという話を聞いたことがありますが任意の波長の脳波を意識的に出すことはどこまで可能なのですか?

回答8
上のBMI技術と関係しますが、かなりの程度可能だと思われます。関連するものとして、かなり昔からバイオフィードバックという概念が知られていて、実際簡単な装置も開発されていました。私も30年ほど前に東京大学工学部の南雲研究室のバイオフィードバック装置を借りて試したことがあります。指にサックをはめて、指の表面電位の測定装置につなぎます。装置にはメーターがついていて、それを見ながら電位が上がるように思い続けると(私の場合は血流が勢い良く流れることをイメージしていました)実際に上げられるようになります。同様に、下げるように思い続けると下げることができます。個人差が大きく、私は5分くらいで、自由にメーターの位置を制御できるようになりましたが、友人はまったくできませんでした。これはバイオフィードバックの典型例です。自分の体内の状態を目で見てモニターしてそれをもう一度脳に戻し、脳の体内への指令を変化させます。その結果がまたメーターの形で見えるのですから脳の指令と実際の指の電位の誤差を知ることができ、それを徐々に小さくしていくことができるのです。現代では、このようなバイオフィードバックのときの脳波を測定し、脳波のどの周波数帯域がどのような指令と関係しているかという対応がかなりつけられるようになって来ました。BMIはまさにバイオフィードバックの現代版です。スポーツ選手のメンタルトレーニングもこういった測定に基づいて定量化され、それを選手が意識すると効果は格段に上がると考えられます。

問9
デジャブ(正夢)というのは、ただの勘違いなのでしょうか?

回答9
デジャブとは既視感のこと。現実に起こったことが過去においてすでに経験して記憶に残っていると感じる感覚。正夢とは実際に起こったことを過去において夢で見たと感ずる感覚。この二つは区別可能です。デジャブは現実の経験と記憶の関係。正夢は現実の経験と夢の関係。科学的にはまだ解決されていない問題です。デジャブの場合、現実の経験を意識するより速く記憶過程が働き、意識したときにはすでにそのことが記憶にあるから過去に経験したことだと感じるという説があります。残念ながらまだ証明されていません。ただの勘違いだとしても、そのメカニズムを知ることが科学研究なのです。

問10
脳波について: 喧嘩をしているときはコミュニケーションが活発になっていると思うのですが、脳波はどのようになっているのでしょうか?

回答10
人に関してはまだ測った人はいないのではないでしょうか。こおろぎやゴキブリが喧嘩をしているときの神経の活動がどうなっているかという研究はあります(北大電子研の青沼先生の研究室で行われています)が、脳波の研究ではありません。

問11
認知症になる人とならない人は脳のどの部分に関係がありますか?

回答11
この問題はまだ十分には解決されていません。少し糸口が見えてきたくらいでしょうか。認知症はさまざまなタイプがありますので、その原因も一つには特定できませんが、仮にアルツハイマー型認知症の場合は、もっとも関係する脳の部位は海馬です。βアミロイドという物質が神経細胞に付着することで神経細胞が働かなくなることが関係があるといわれています。他の認知症ではまた他の脳の場所が関係してくるでしょう。しかし、実際認知症になるかならないかの判断は難しく、その判断ができるような脳の場所は分かりません。認知症の最大リスクは年齢だと言われていますが、若年性認知症もありますから難しい問題ですね。

問12
人間と猫の脳は前頭葉の有無しか違いがないため、猫は人間の情緒を察知すると読んだことがあるのですが本当ですか?

回答12
猫にも前頭葉はあります。猫の脳は基本的な構造は人間と大きくは変わっていません。しかし、これが猫が人間の情緒を察知する理由だというのは少々乱暴な議論だと思われます。同じ人間でも他人の情緒を察知できない人もいますし。一般に犬や猫の家禽は人間と歴史的に長い付き合いがあります。また人間は人間に居心地が良いように環境を変えてきました。家禽もそのように遺伝子改良してきました。そういう意味では、犬も猫も人間の行動パターンをより良く学習する個体が選択されてきたと考えてよいでしょう。情緒も行動パターンの一種です。

問13
ミラーニューロンが働くのは視覚や聴覚の情報に対してだけですか? 記憶や夢のなかの体験(作られた情報)に対してはどうですか?

回答13
ミラーニューロンは最初サルで発見されましたが、自分がある意識的な動作をしたときに活動が活発になるニューロンが、他のサルが自分と同じ動作をしているときにも活動が活発になることから、まるで活動が鏡に映したようだという意味でミラーニューロンと名づけられました。従って、相手の動作を見たときに反応するわけです。運動と視覚の連合です。その後、サルで視聴覚ミラーニューロンが発見されました。物を割る行為に反応するニューロンが、物が割れる音を聞いただけで反応するのです。ヒトの脳にも類似の働きをするニューロンシステム(複数種類の神経回路網からなっている)があることが分かり、ミラー(ニューロン)システムと呼ばれています。しかしその後人のミラーシステムは視覚・運動連合や聴覚・運動連合に限らずもっと広範囲の意味でコミュニケーションとかかわりのあるシステムとして理解されるようになりました。つい最近のことです。人のミラーシステムは前頭葉、頭頂葉、側頭葉にわたる広範囲の脳の連絡に関係しています。脳の中の長距離相互作用のシステムですからさまざまな機能の関係性や連合に関係します。自分と他人の区別の認識にも関係しています。ミラーニューロンそのものは今のところ視覚や聴覚と行為との関係を表現すると理解されていますが、ヒトのミラーシステムはさまざまな感覚と行為の連合に関係していると考えられています。

問14
脳を切り取って、生きている手術で、死亡との違いは?

回答14
質問の意味がよくわかりませんでした。回答不能です。すみません。

問15
脳活動の何を数理科学しているのか?

回答15
脳活動を数学的に表現する方法はいくつかあります。例えば、物理の力学に端を発していまや数学のひとつの大きな分野になった力学系という分野がありますが、そこでの方法も脳活動を記述するのに使えます。このとき脳活動とは、ミクロなレベルでは分子の反応系であったり、イオンチャンネルの状態であったりです。またそれらが総合して一個一個のニューロンの電位が決まりますのでこれも脳のミクロレベルでの活動状態です。さらに、このニューロンが結合して集まったニューラルネットのマクロな電位状態(一個一個のニューロンの電位の平均値)は脳活動のマクロな状態を表します。その中間にメゾスコピックと呼ばれるダイナミックなレベルがあります。ミクロな状態もマクロな状態も、またメゾスコピックな状態も力学系の手法という数学の一方法で表すことができます。私たちが研究しているのはこのような量です。

問16
激しいカオスとは何か?

回答16
普通カオスに秩序があると認識できるのはカオスの次元が低い場合です。ここで次元というのは普通私たちが住んでいる3次元、平面の2次元、直線の1次元といった次元を集合(ものの集まり)に対して拡張したもので、カオス運動を表す曲線(軌道ということが多い)の集合としての次元です。これは1,2,3のような自然数ではなく、2.45とか5.36といった非整数で表されます。激しいカオスというのはこの次元が大きいもののことです。数十次元とか数百次元と数万次元とかのカオスです。つまり、カオスには違いないがその運動の中に秩序状態を見出すことが難しいもののことを言っています。

問17
カオスを(数学的に)定義することはできているか?

回答17
カオスは数学的にきちんと定義できています。カオスのどの性質を強調するかによって複数の定義の仕方があります。

問18
カオスを分類・類別できるか?

回答18
上の意味で次元の低いカオスに関してはそのトポロジー(位相)から分類はできています。次元が高くなるとまだ分類ができるほど研究が進んでいません。高次元の一つの特徴はいろんな状態を遷移する遷移現象ですが、その一つとして私たちが1990年前後に提唱したカオス的遍歴という概念があります。今、世界的にこの概念が注目されていて、数学的研究も始まりましたし、脳科学への応用にも注目が集まっています。しかし、高次元の場合はこれからの問題が多いですね。

問19
今、正直頭がカオスです。脳で餅つき? どういう点ですか?

回答19
カオスを生み出す典型的な操作が餅つきの操作(薄くして広げて、折りたたんで、という操作の繰り返し)です。脳に餅つきがあるわけではありませんが、脳の活動状態を数学的に調べると餅つき変換と類似の変換が神経活動によって生成されていることが分かってきたのです。

問20
20-1. ”天才”は存在するか?
20-2. 他より卓越している人間は脳の構造が違うのか?それとも学習方法(努力)?

回答20
“天才”をどのように定義するかにもよりますが、誰も考え付かないようなことを発見したり作ったりする人であると仮に定義しますと、明らかに天才はいます。天才という言葉は天賦の才もしくはその才を与えられた人というのがもともとの意味合いでしょうが、上の定義からするとあまり遺伝しないように思われます。私は誰でも天賦の才をそれぞれ授けられていると思っています。それを磨き才能を発揮するチャンスに恵まれ本人もそのように努力するかどうかで実際に天才になるかどうかが決まるのだと思います。アインシュタインの脳の一部、頭頂葉下部小葉は他の人に比べ発達していたと言われています。ここはイメージを働かせるときに重要な場所として知られていますので、アインシュタインは想像力が抜群だったのでしょう。しかし、これが生まれつきそうだったのか、彼の学習の仕方やその後にうけた教育の結果なのかどうかは分かりません。仮にアインシュタインが大変想像力豊かな脳をはじめから持っていたとしても、彼の小さいころに知的刺激を与え続けたヤコブ叔父さんがいなかったら、話し相手になって一緒に議論をしていた大学の友人たちがいなかったら、最初の妻になった数学の得意なマレーバ・マリクさんがいなかったら、特許局に勤めず順調に大学の助手になっていたら、あのような三つの革命的な研究成果(特殊相対性理論、ブラウン運動の理論、光電効果の理論)を1905年に一度に発表できたかどうか。ちなみにノーベル賞は光電効果の理論によってです。また、ブラウン運動の理論はカオス理論と大いに関係があります。

問21
天才と呼ばれる人たちも、ミラーニューロンが働いているのか?僕が考えるに、そういう人たちは”先天的に”何が与えられるものがあって、うまい人の真似をしなくても(ミラーニューロンが働かなくても)できるのではないか?

回答21
天才といわれる人も人の真似から入ることが多いでしょう。一般に、学問の場合(特に理系の学問の場合)は先人の行った研究成果を古代ギリシャから近代に至るまで学校教育の現場で習いますが、そのとき先人のやったことを再現できるように勉強していきます。どんな天才もこのプロセスをはずすことはないと思います。まずはまねをして同じことができるようになることが次の飛躍のためには必要です。おそらく、スポーツの天才もそうではないでしょうか。過去や現在の偉大なプレイヤーのまねをしてみることで優れたものを体現できるようになり、それが次のステップである独自性の発達につながっていくのではないでしょうか。囲碁の天才もはじめの段階では定石をすべて再現できるようにしているはずです。絵画の天才も若いころはひたすらデッサンを繰り返します。また他の天才画家の絵の模倣も試みたりすると聞いています。むろん例外はいつも存在します。数学者のラマヌジャンははじめから特殊な才能が開花していた例です。おそらく脳の構造が一部特異的に発達していたのでしょう。素数で会話をする自閉症の兄弟の脳も特異な部分があったのだと思われます。

問22
”興味”はどこからくるか?また脳の構造に関係しているか?

回答22
興味の脳部位はまだ特定されていませんが、関連する部分は分かってきています。大脳辺縁系と呼ばれている部分は感情や価値判断とも深く関係しています。また、大脳基底核には報酬と関係する線条体と呼ばれる部分があります。ここはドーパミンを放出しますが、このドーパミンが満足感や喜びと関係があるといわれています。物質としてはドーパミンのほかにセロトニンやアセチルコリンなどが感情や意欲と関係していることが分かっています。これらは主に大脳基底核から放出されますが、その影響は脳全体に及んでいます。

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