1月26日の講義では(株)KITABA代表取締役会長の斉藤浩二さんから,科学技術コミュニケーションの応用として,まちづくりやランドスケープ(=風景,景観)デザインなどの実践事例についてお話をいただきました。
実践事例とは,札幌市のモエレ沼公園や⽯⼭緑地。今や海外からもたくさんの観光客が訪れる北海道を代表する公園です。これらの公園を⽣み出したのが斉藤さんです。モエレ沼公園は,世界的に著名な彫刻家イサム・ノグチが構想した巨大なアースワーク(大地彫刻)とも言える公園でイサム・ノグチが遺したマスタープランを基に札幌市,イサム・ノグチ財団,アーキテクトファイブ,そして(株)KITABAの前身である(株)キタバランドスケーププランニングなどが設計を進め17年かけて完成させたそうです。
公園が完成した以降も⻫藤さんは「モエレ沼公園の活⽤を考える会」の結成に参画して,公園の利活用と環境保全を市民と一緒に考える活動を展開しています。
もう⼀方の石山緑地は,彫刻家グループCINQとのコラボレーションによって,札幌軟石の石切り場跡の荒れた土地を公園化したものです。公園を作るプロセスでは,市⺠に現場を公開して意見を受け⼊れたり,軟⽯の彫刻教室を実施したりするなど,市民に愛着を感じてもらうための工夫を凝らしたそうです。
「一つの庭や公園が良いだけではだめ。まち全体がつながって広がって良くならなくてはいけないんです。」と斉藤さんは言います。ランドスケープデザインは単なる造園ではなく,人と風土の相互作用でその場所に新たな「様相」を創り出すための思想と技術です。その土地の歴史や本来の自然環境,アーティストや地域住民の考えを踏まえながら,目指すべきランドスケープを実現する必要があります。
さらに斉藤さんは,市民によるまちづくり活動にも積極的です。滝川市を舞台に「NPO法人アートチャレンジ滝川」を立ち上げて,「アート」をキーワードに,経済ではなく文化から,そして利益誘導型ではなく興味誘導型のしかけづくりに取り組んでいます。ここ北海道が,パリやフィレンツェのようにアートを目当てに世界中の人々が訪れる芸術の都になる日が来るかもしれません。
斉藤さんは小さな作品を作るアーティストではありません。実はつねに「他力本願」という意識を大切にしているそうです。アーティストに任せる,市民に任せる,専門家に任せる,得意な人に任せる,そして多くの人のベクトルを合わせて一つの方向に向かわせることでとても大きなランドスケープを創造しています。
私たち科学技術コミュニケーターは科学者ではありません。けれども科学者とのコラボレーションによって,科学者が単独で行う時よりも社会に大きなうねりを起こすことができる。そんな応援メッセージをいただけたような授業でした。そして最後に,北国の公園が最も美しく映える,と斉藤さんが話す「冬の公園」に行きたくなりました。
(レポート:本科生 安倍 隆)