実践+発信

「アートを通して」(7/31)朴炫貞先生 講義レポート

2022.3.12

田中文佳(2021年度 本科/社会人)

モジュール2「表現とコミュニケーションの手法」第4回目は、朴炫貞先生による「アートを通して」です。講義は「あなたにとってのアートって何ですか?」という問いかけから始まりました。お話の中で繰り返されたのは「正解はないけど答えはある」という言葉です。受講生一人ひとりが、アートについて、アートと科学技術コミュニケーションについて、自分の答えを探す時間になりました。

現代アートは、アートとは何かについて問いかける表現活動

現代アートでは、目的や素材はもちろん、作品がいる場所も多様で、作家の表現活動そのものをアートと捉えます。アートを通じて私たちは、日常では体験できない不思議な感覚や、人生が変わるような強力な体験、感情や価値観の揺さぶりを体験することができます。限られた時間しか存在できない作品、新たに開発された素材、鑑賞者が作品の一部になる体験、アーティストとの協働など、アートという概念自体の広がりがとても大きいのだと感じました。

アートを通してできること

現代アートは、見る側にも解釈の自由があり、どう自分ごとにしていくのか、作品を通じて鑑賞者がどう変化するのかも含めて1つの作品となるそうです。朴先生の視点で選んだたくさんのアートが紹介されました。個人の自由な表現である作品によって、自分が他者と繋がっている、社会の中に存在していると感じる体験ができる、非言語の作品によってかえって作者の強い思いが伝わるというある種の逆説的な体験など、アートの面白さと、アートが投げかけてくる問いの大きさに驚きました。また、「身の回りを違う視点で見ていくのは面白い」と言う朴先生の作品や表現活動は、日頃感じることのない不思議な感覚を呼び覚ましてくれるような印象がありました。

朴先生が撮影したとある物の写真。視点を変えてみると、身近なコレがこんな風にみえる

「多様な意見が世の中に出てくる、それが共存される。そういう社会を作っていくことへのアートの役割は大きい」という朴先生の言葉は、とても心に響きました。アートは極めて個人的で自由な活動であり、それが許容される社会は、個人の多様なあり方が認められる社会でもある。でも、社会は時に多様性を失っていく傾向も持っていて、多様性を維持・発展させる社会であるためには、「問い続ける」姿勢が必要である。鑑賞者の価値観を揺さぶるような力を持つアートの存在は大きいということです。私の目指す科学技術コミュニケーションや主権者教育にもアートは不可欠なのだと感じました。

昨年度の冬に北大総合博物館で朴先生が主催した「そりにひかれて – 科学とアートで環境をめぐる」展より
今を見つめて、未来を創造する

科学技術コミュニケーションを考えたときに、アートを通して皆さんは何がしたいか、何ができると考えているか?と問いかけました。朴先生は、今を見つめて、未来を創造することができる、と考えています。アートとサイエンスを繋げて考えられる体験、つまり解釈できるという原体験があれば、アートにもサイエンスにもポジティブに 向き合って、未来を創造することができる。そのために、朴先生は、アーティストと科学者が出会う場作りをしつつ、自分自身がアーティストでありながらも鑑賞者でもありたいと考えています。アートはと個人的で自由な活動であるからこそ、アートが大切にされているか否かは、社会の多様性の1つの指標かもしれません。裏を返せばアートへの偏狭さが生じた社会は、多様な意見を許さない、硬直した社会ともいえます。アートとどう向き合うかは、自分の中の多様性をどう持ち続けるかという課題でもあり、科学技術コミュニケーターとして自分がどうアートと向き合うかを考え、向き合い方をみ直しながら生きていきたいと思います。