いよいよ明後日から2022年度。CoSTEPには2名のスタッフが新たに加わる予定です。その前に、昨年の9月22日から博士研究員として活躍している福浦友香(ふくうら・ゆか)さんをご紹介します。メディアデザインや観光学から科学技術コミュニケーションに飛び込んで半年たった福浦さんがどのような想いで働いているのか、改めて伺いました。
ーー改めまして、自己紹介からお願いします。
北海道の道東出身で、札幌には小学2年生から住んでいます。札幌市立大学の一期生としてメディアデザインを学んだ後に、修士からは北大で観光学の観点も取り入れた研究をしてきました。
メディアデザインに興味を持ったのは高校生の時です。幼い頃から、物語の中で「これはどういうことを表し、どんな意味があるのか?」「なぜこのようなことを言っているのか?」ということが気になっていましたが、高校生の頃には、漫画やアニメ、ゲームの中で戦争がどのように描かれているかということを総合学習の時間にまとめていました。大学進学を考える際に、札幌市立大学の開学、メディアデザインやメディア美学者の武邑光裕(たけむら・みつひろ)先生のことを知りました。
札幌市立大学では、武邑先生の元で、ニコニコ動画に投稿されている初音ミクを使った動画がカバーからオリジナル曲の登場へと変遷していった様子を調べていました。二次創作が設定を共有して変化させていく、例えば本歌取りや連歌のような日本の伝統文化とどのように接続しているのかといったことや、二次創作を使って人々がどうコミュニケーションしているのかといったことを明らかにしたかったのです。私自身が二次創作、いわゆるオタク文化に興味がありまして…… “Otaku Magazine”というルーマニアの雑誌の、日本のコントリビューターをやっていたりもします。何かのタイミングで「オタク文化研究家」と紹介されたこともありましたね(笑)
―― Otaku Magazineの話が非常に気になりますが、それはまたいつかの機会に(笑)なぜ修士からは観光学の分野に移ったのですか?
観光学にはいろいろな文化的な広がりを感じていたからです。文化的な何かしらの行動は、いろんな波及効果やつながりのようなものを伴います。例えば二次創作の流れでいうと、同人誌即売会に行く時は、即売会だけではなくて美術館に行ったり、ごはんを食べたりしますよね。二次創作だけに限らずとも、消費だけでなく創作する人たち、いわゆる生産消費者の生産活動を都市政策とか文化政策にどうやってつなげていけるのだろうか、というところにとても興味があったのです。そこで、聖地巡礼といったオタクのコンテンツツーリズムを研究対象とされている山村高淑(やまむら・たかよし)先生のゼミに入りました。海外では日本のオタク文化がどのように受け入れられていて、それを使ってどんなコミュニケーションが行われているのかといったことを、現地に見に行って調査をするなどしましたね。
博士課程からは、観光という移動をともなったコミュニケーションについて焦点を当て、山田義裕(やまだ・よしひろ)先生のゼミに入りました。観光写真における現代的意義に関する研究などをしています。観光写真は、かつてはフィルム写真で現像してアルバムにするといった形で楽しむものでした。家に帰ってからみんなで話すためのコミュニケーションツールとか、自分もそこに行った証拠のような意味合いがあったのです。それがデジタル化によってすぐ共有できるようになると、「自分は今ここにいます」といった使われ方をされるようになってきました。ビデオゲームの中での写真撮影(インゲーム・フォトグラフィー)などもあります。観光写真の意味が変わっていて、何か違うものになっているのではないでしょうか。その変遷を明らかにしたいというのが大きな目標としてあります。
――ところで、メディアデザインとはなんでしょう?
そもそも「デザイン」はラテン語の「デジナーレ」に由来します。「計画を記号で表す」という意味です。メディアデザインはメディアを使ってデザインをする行為と捉えられがちなのはこのためかもしれません。しかし、私は記号で記された物事を読み解くこともデザインの大切な役割だと考えています。この観点からメディアデザインが何かと考えると、「物事を読み解いてそれを媒介していくこと」なのではないかなと考えています。それがどういった意味を持っているのか、どういった背景があるのか、他のこととどういうふうにつながっているのか、他の事柄と実はこことここでつながっているのではないかといったように、です。究極的には、自分自身がメディアになることといえるかもしれません。
――物事を読み解き媒介するというのは、科学技術コミュニケーションでもとても大切な能力ですね。
そう思います。あくまでも一例ですが、新型コロナウイルス感染症の「三密」。専門家会議の方々などが三密を避けようリスクを低減させようと伝えていたときに、「三密が全部揃わなければ大丈夫なんだ」と思われている方々が多くいらっしゃったことには私もとても驚きました。専門家が伝えたいことが受け手によく伝わってないときに科学技術コミュニケーションは力を発揮します。その場合に、「じゃあどうやって伝えたらいいの?」といったところを、きちんと読み解いて考えていくことが大切なのではないでしょうか。
――来年度は本科グラフィックデザイン実習の担当に加え、講義や演習なども担当しますね。最後に、意気込みなどをお願いします!
CoSTEPでは、引き続きメディアデザインの観点から科学技術コミュニケーションに参与していきたいと思っています。受講生とは、実習や演習を通して、「メディアデザインとは何か?」といった根本的なことをこれからも考えていきたいですね。今日明日使えるといったものではないかもしれませんが、そういったメディアデザインの考え方や目線、視座のようなものを大切にした科学技術コミュニケーションを一緒につくれればと思います。