5月26日、三上直之先生(北海道大学 高等教育推進機構)による講義「参加と対話の科学技術コミュニケーション」が行われました。科学が問うことはできるが、科学だけでは答えが出ない問題=「トランス・サイエンス(trans-science)」的な問題に対して、多様な市民が「参加」し、「対話」を通して答えを出していく手法があります。この「参加と対話のための手法」の代表として「コンセンサス会議」を中心に、そのしくみと活用例について詳しく解説していただきました。
レポート:中村文香(本科・北大総合化学院修士課程 総合化学専攻2年)
「参加と対話」のための手法
トランス・サイエンス的な問題に対し、分野を横断する専門家と幅広い市民が参加し対話を通して答えを出していくことが重要です、と三上先生はお話を始めました。前回の講義で平川先生は「信頼の危機」を取り上げましたが、専門家や専門家が司るシステムへの信頼を取り戻すことはまさに直近の課題といえるでしょう。
コンセンサス会議
コンセンサス会議は、1980年代より参加型テクノロジーアセスメント(pTA)の一手法として発展し、日本では1993年に科学技術社会論(STS)の研究者により紹介されました。
この会議は市民パネル、専門家、ファシリテーター、運営スタッフで構成されます。社会的論争を含む科学の話題に対して、あらかじめ基礎情報の説明を受けた市民パネルが、専門家と対話をしながら数日かけてじっくり議論し、合意形成し、文書の形で公表したり、政策決定者に提言したりします。
市民パネル(約15人)は一般公募で選出されますが、特定の意見・立場に立たず、開かれたスタンスで議論できる人であることが条件になります。専門家(〜20人程度)は、議論に必要な情報をそれぞれの立場から提供するという役割をもち、情報の偏りを防ぐために幅広い人々(研究者、関連企業、団体、ジャーナリストなど)から選ばれます。
「参加と対話」の活かし方
このような熟議(参加と対話)を通して得られた結果をいかに政策決定に反映すべきかという課題もあります。しかし、政策決定に対してその結論を“切り離しつつ、影響力を持たせる”ことが望ましいと三上先生は指摘します。(ちなみに、遺伝子組み換え作物について話し合われた、北海道GMコンセンサス会議(2006年11月〜2007年2月)の結果は、道の施策立案の参考として活用されました。これは、日本初「実用段階」のコンセンサス会議となったそうです。)
市民が熟議のための十分な時間と情報を与えられたとき、当該テーマについてどのような判断を下すのかを知ることは、政治的議論や意思決定の際の参照意見として価値ある判断材料になります。さらに重要な点として、参加する市民と専門家の「学習」の機会を得る、いう見方もあるそうです。
一方で、コンセンサス会議を通して導かれた結論を政策決定に直接生かそうとすると代表性の問題が発生します。「コンセンサス会議」が少数の有志による参加によって成立しているからです。そこで、「熟議性」を維持しつつ、「代表性」を高める方法として討論型世論調査(Deliberative Polling)も注目されているそうです。これは討論の前後に数百人の一般市民を対象にしたアンケートをとり、その結果の変化に注目する手法です。
いずれの方法にしても、市民が専門的な情報を与えられ十分な時間と熟議を通して導かれた答えを活用することにより、より成熟した社会の実現が可能になると考えられます。科学技術コミュニケーターとして、この手法を取り入れながらトランスサイエンス問題を解決していく必要性を強く感じました。三上先生ありがとうございました。