実践+発信

「科学技術コミュニケーションとは何か」(5/15)川本思心先生 講義レポート

2022.6.17

藤本研一(2021年度 本科/社会人)

5/15、CoSTEP18期最初の講義が行われました!

モジュール1の1回目と、CoSTEP18期生にとって最初となる講義が2022年5月15日に行われました。記念すべき初回の講義を担当するのは北海道大学CoSTEP部門長であり、理学研究院准教授の川本思心先生です。

講義テーマは「科学技術コミュニケーション概論」です。CoSTEPが目指す科学技術コミュニケーション研究および科学技術コミュニケーター育成に直結するテーマとなっています。

今回は「科学技術コミュニケーション概論」で講義された内容を3つのポイントに絞って説明していきます。

(1)科学技術コミュニケーションとは何か?

「科学技術コミュニケーションとは何だと思います?」

冒頭、川本先生からの質問がなされました。

科学技術コミュニケーションという概念には研究者・専門家が知っている科学技術の知識を一般の人にわかりやすく伝え、科学技術のあり方を議論し、新たな知を作り出していくことなど、多くの要素が込められています。

実際、文部省の定義でも「非常に幅広い内容を包含する概念である」とされている上に論者によって定義は様々です。ですが、そこに共通するのは「上から一方的に押し付けられる」ものではなく、研究者-市民などが対話的関係の中で作り上げていくもの、いうならば固定的な存在ではないものが科学技術コミュニケーションなのだ。講義の中ではこのように説明されていました。

(2)科学技術コミュニケーションはいつから重視されるようになったか。どんなテーマが議論されてきたか。

科学技術コミュニケーションが重視されるようになったきっかけはBSE(牛海綿状脳症)をめぐる一連の騒動であると言われています。BSEは病原性プリオンによって牛の脳が海綿状化するという現象で、わが国では「狂牛病」と呼ばれて恐れられました。1986年に英国で発見された当初、人に感染するリスクはきわめて低いと言われていました。ところが1996年に人に感染することが英国で報告され、結果117名が死亡するという結果に繋がりました。そこから「信頼の危機」という言葉が生まれ、英国をはじめとする世界の科学技術政策等に大きな影響をもたらす結果となりました。

わが国では2001年にBSEに感染した牛が発生したことを受け、科学技術コミュニケーションが注目されるようになりました。BSEにおいての特に大きな影響は2004年からのアメリカ産牛肉の輸入中止です。これはアメリカでもBSE牛が発生したことを受けての措置ですが、輸入再開をしても問題がないか、検査はどの程度まで行うべきかなど大きな議論が国内外で起こる結果となりました。BSE発生の原因として牛の肉を粉末化した肉骨粉が牛の飼料に使われていたことも指摘され、そういった物を使用して問題ないのか、本当に安全かなど多方面に渡っての議論が起こる結果となりました。

BSEをめぐる一連の騒動は科学技術・専門知識のわかりづらさと、科学技術をどこまで実際に活用すべきかなど、「科学技術コミュニケーション」における大きな論点を残しています。

なお、BSE以外にも東日本大震災をめぐる放射能汚染の問題や近年のCOVID-19をめぐる報道など、科学技術コミュニケーションのあり方は大きなテーマとなっています。

(3)科学技術コミュニケーションをどのように実践していけるか

CoSTEPという組織は2005年にスタートし、科学技術コミュニケーションのあり方をめぐる研究と科学技術コミュニケーションを担う人材育成を目的に運営がなされています。

CoSTEPでは単に講義を聴く(インプット)だけではなく、演習・実習でアウトプットしていくことが求められています。そのため、これまでもCoSTEPでは科学技術のあり方を一般の人達が集まって議論・対話する「サイエンスカフェ」を行うなど、科学技術コミュニケーションを実質化するための取り組みを多数行ってきました。

複雑化する現代社会の中で、科学技術コミュニケーションの重要性は年々高まっています。せっかく科学技術コミュニケーションを学ぶ以上、現在自分がいる立場の中でどのように科学技術コミュニケーションを活かしていけるか。これを各自で考えていってほしい旨が話されました。

終わりに

講義が一区切りした後には受講生との質疑応答の時間も行われ、これから始まる1年間の学習に胸をふくらませる講義となりました。

(1)でもまとめた「科学技術コミュニケーションとは何か」という問い。「CoSTEPの1年間の中で絶えず掘り下げ、自分なりの定義を見つけていってほしい」。川本先生からの説明で講義が締められました。