実践+発信

123サイエンスカフェ札幌「ボウッとしてんじゃねよ!ハイスピードカメラ捉える燃焼の世界」を開催しました

2022.7.18

2022年6月19日(日)、第123回サイエンス・カフェ札幌「ボウッとしてんじゃねーよ!ハイスピードカメラが捉える燃焼の世界」を紀伊国屋書店札幌本店にて開催しました。ゲストの藤田修さん(北海道大学 大学院工学研究院 教授)は、一瞬、また一瞬と変わる炎の姿を高速度撮影で観察し、メカニズムの詳細を検討してきた研究者です。聞き手は梶井宏樹(CoSTEP 博士研究員)が務めました。

(ゲストの藤田修(ふじた・おさむ)さんは作業服でのご参加。1959年に北海道生まれた藤田さんは、学部時代から現在までの40年間、北海道大学で代替燃料の燃焼特性の解明や、無重力下での燃焼研究、宇宙船での火災安全に挑んでいます。趣味の囲碁は全日本学生名人戦で3位になったほどの腕前)

3年ぶりの対面での開催となった今回、感染症対策のため事前申込制での人数制限を設けましたが、無事に満員御礼。炎の写真や映像を切り口に、32人の参加者とともに燃焼の奥深さについて語り合いました。

(感染症対策のため参加者は全員マスク着用。これまでは隙間なく並べられていた椅子も、今回は広々とした配置です)
ボウッとしてんじゃねーよ! 燃焼ってなに?

ゲストの自己紹介が済むや否や、燃焼とはそもそもどういう現象かという素朴な問いが、聞き手から会場に投げられました。少しザワザワし始めた参加者の横から「イエーイ!」と勢いよく登場したのは、約50歳のショウちゃんです。

(ショウちゃんこと、CoSTEPの古澤正三さん。やるなら本気で!サイエンス・カフェ札幌の鉄則です)
(ショウちゃんのテンションと姿に戸惑いつつも、真面目に答える参加者)

「燃焼とは、化学反応を伴う熱と物質の移動現象〜〜!」

例のあの番組のあのくだりを終えたショウちゃんがカンペを見ながら読みあげた説明は、あまりに難解なものでした。いったいどういうことでしょうか? 本当に私たちの身近な燃焼にも当てはまるのでしょうか?参加者から予め寄せられた写真をもとに、藤田さんからの助け舟が出されます。

日常の炎の姿から読み解く燃焼の基本

例えば、木を燃やしている次の写真について「燃焼の要素がほぼ全て含まれているような良い写真ですね」と笑顔で評した藤田さんは、そのメカニズムを次々と読み解いていきました。

(提供者にその場で直接伺ったところ、友達とキャンプで火起こしをした時の思い出の一枚とのことでした)

木は加熱されることで内部から可燃性の成分が蒸気となって出てくること、それが空気中の酸素と混ざって燃えていること、炎の中のスス(=炭素の小さな粒)が発光してオレンジ色に光っていること、そして可燃性の蒸気が出尽くして炭となった部分では表面に酸素が届くことで燃えること(木炭を燃やす時にうちわなどで空気を送るのはこのため)といった具合に、一枚の写真に秘められている情報を実に楽しそうに引き出していきます。

(参加者からは、画面上の9枚の魅力的な炎の写真を事前にいただきました。対話を通じて、燃焼の基礎や高速度撮影で綺麗な写真を撮ることの意義に会場全体で親しむような時間となりました)
研究者の人生が詰まった一枚

いよいよ藤田さんのお気に入りの写真の紹介です。まずは、2003年まで上砂川町で稼働していた無重力実験設備で、ブタンを燃料としたガスバーナーの燃焼をとらえた一枚。「長い研究生活の中でも一番綺麗に撮れたもの」と藤田さんは自信をもって言います。

無重力条件下で炎が磁場にどういった影響を受けるかを調べようとしていたら、写真のように成長したススが熱泳動という現象によって火炎の外に飛び出すような燃焼を捉えることに成功したそうです。さらに、こういった興味深い現象を調べていくことで、ボイラーといった私たちの生活に関わる技術の燃焼効率の改善につながることや、世界一の設備が身近にあることの意義などについてお話しがありました。

(藤田さんの人生が詰まっているという写真だけに、実験装置の紹介の際には当時の藤田さんの様子も)
アンモニアの炎は未来を照らすか?

続いて紹介されたのは、生物の細胞のように小部屋が広がったオレンジ色の炎の写真。実はこれ、アンモニア(NH3)が燃焼する様子を捉えたものです。

(この写真は今回のチラシの表面にも使用しています)

アンモニアといえば理科の実験や虫刺され薬でおなじみの、独特な刺激臭をもつあの化学物質です。炭素を含まないので代替燃料として期待されている気体ですが、効率よく燃やすためには設備内でどのようなメカニズムの燃焼が起こるかの理解が欠かせません。藤田さんのグループでは現在、直径5センチほどの管を通るアンモニアの火炎の振る舞いをハイスピードカメラで捉えて、不安定化につながる要因や改善方法を探っている最中だといいます。

(太陽のように輝くアンモニアの炎。今後、未来を照らす存在になるのでしょうか)
休憩だってサイエンスカフェの醍醐味

写真を切り口に燃焼の奥深さについて深めた後は休憩です。オンラインでの開催時は、イベントの時間を短くしていたことなどもあって省略することもありましたが、今回はしっかりと10分間取りました。参加者は飲み物を飲んだり、周りの人と話したり、付箋に質問を書いたりなどして頭の中を整理します。話題は会場全体で作っていく、そんなサイエンス・カフェ札幌の場創りは3年ぶりの対面開催でも健在でした。

(会場から集めた質問を整理するのだって参加者と一緒に)
お待ちかねの質問タイム

「なぜ燃焼に興味をもったのですか?」という研究者の内面に迫る素朴な質問、「(擬似的な実験条件ではなく)なぜ本物のエンジンを使って実験をしないのですか?」という研究手法を深掘りするような質問など、参加者からはさまざまな質問が寄せられました。そのどれもに対して、藤田さんは嬉しそうに答えてきます。

藤田さんが一層真剣な表情に変わった質問がありました。「藤田さんのアンモニアの研究はあとどれくらいで実現しますか?」というものです。「本当に急がなくてはいけないと思っています」と前置きした上で、遠くない未来、例えば2030年までにはアンモニアを燃料として用いることのできる工業的な工程を増やしていきたいという意気込みを熱く語りました。

やればやるほど面白く、生活にも直結する燃焼学

藤田さんからは最後に、燃焼の魅力やその研究の意義について以下のようなコメントがありました。

「私自身は何事にものめり込んでしまうタイプで、燃焼は観察していると面白くて好奇心をすごく満たしてくれます。燃焼の研究をしていると次々といろいろなことが起こったり、それが新しい研究対象になったりと、そういうことが限りなく続く面白さがあります。一方で、燃焼は産業とすごく結びついていて、地球温暖化やカーボンフリーといった問題とも直接つながっていますよね。だから、基礎的なことがわかれば、それが産業にフィードバックされて役に立つチャンスがあります。そこがすごくやっていて嬉しいし、魅力のあるところだなと思っています。」

燃焼の理解の進展は、人間や人間社会、地球環境に変化を起こしてきました。その現象と今後どのように向き合っていくのか、今の私たちの目の前にはさまざまな選択肢が広がっています。今回のサイエンス・カフェ札幌で分かち合った燃焼の奥深さは、藤田さんが40年もの間見てきた内のほんの一部ではありますが、きっとこれから対話を進めていく上で大切な視点になるはずです。ボウッとついては一瞬、また一瞬と姿を変える炎をぼーっと眺めながら、たまに今回の内容を思い出してみるのも良いかもしれません。

ご参加いただいたみなさん、そして藤田さん、ありがとうございました!

(終了後の集合写真がこれほど賑わうのも3年ぶり。新型コロナ禍で初のオンライン開催となった第111回サイエンス・カフェ札幌と比べるとその差は一目瞭然。対面での開催を続けられますように――)