6月29日の講義では、伊藤直哉先生(北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院教授)に「CoSTEPのためのコミュニケーション/マーケティング・マインド」と題してお話し頂きました。
・コミュニケーションとは何か
まず初めに、1963年に発表されたシャノンとワーレンのコミュニケーションモデルの説明です。電話による情報伝達をイメージしたこのモデルは、情報Aをコード(暗号)化、コードを電話というチャンネルで送信、そしてそのコードをデコード(解読)することにより受け手は情報Aを得る、というものですが、これは人間同士のコミュニケーションには当てはまりません。
人のコミュニケーションでは、そのコードは解読ではなく、受け手によって解釈され伝わります。その解釈には、個々の持つ価値観や評価がフィルター(フレーム)として働き、伝わるコードが影響を受けます。夫婦間のコミュニケーションを例にすると、濃い味が好きだという夫と、薄味が好きな妻では、味覚の嗜好が異なり、夫が発するコードと、受け取る妻のコードに違いが生まれます。
コミュニケーションというのは、伝える相手がどのようなフレームとコードを持っているかを知った上で情報を出す必要があり、出発点は自分ではなく受け手である、と説明した先生は、コミュニケーターの最大の資質は、自分のコードをどれだけ捨てて、相手のコードを素直に自分の中に取り入れられるかである、と強調されました。
・メディアの変化
次にご専門である、マーケティングのデータから時代とともにマスメディア効果がどのように変化しているかという説明です。
大手広告代理店がTVCMのスポンサー獲得に使用した考え方が、AIDMA(アイドマ)モデル(Attention→Interest→Desire→Memory→Action)です。繰り返しCMを流すことで視聴者に認知させ、興味を抱かせて購買欲求をかき立てる、という図式でしたが、インターネット時代に入り、AISAS(アイサス)モデル(Attention→Interest→Search→Action→Share)へと変化しています。大きな違いは、欲しいものをネット検索(Search)し、商品の口コミを読み、その情報を共有(Share)するという構造の変化です。最近ではさらにSNSをターゲットにしたマーケティングモデルが広がっています。
伊藤先生はその新しいSIPS(シップス)モデル(Sympathy→Identify→Participate→Share)こそ、CoSTEPに向いていると言います。コミュニティサイト(Mixi、facebook等)で、共感を確認、そこに参加し情報を共有していく、というのは、殆どコストをかけずにできます。ただ、どのように情報をデザインするのかが難しいので、コミュニケーターがサイエンスをうまく伝えていくには、その情報のリモデルが重要だ、と説明してくださいました。
刑事コロンボを連想させる「わたしのかみさんは」で始まる奥様とのコミュニケーション例は、身近な内容で理解しやすく、実践でどのように役立てたら良いのかイメージも容易でした。そして「良いコミュニケーターとは、理論を知っているかどうかではなく、それを実践できるかどうかです」という言葉は、コミュニケーターとして何が必要か、という私達の知りたい情報を直球で送ってくださったように感じました。