本日は、熊本大学大学院社会文化科学研究科教授の鈴木克明先生を講師にお招きし、「インストラクショナルデザイン(教授法)の基礎」と題して講義をして頂きました。
インストラクショナルデザイン(以下ID)とは、教育活動の効果と効率を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのことを指します。
伝統的には教育は「技の伝承」として考えられてきましたが、それを科学・工学的アプローチによって効果的に伝授、改善していこうというものです。IDは、システム的アプローチを教育設計に応用したものであり、評価、分析、設計、開発、実施の五段階を循環させながら、改善を繰り返していきます。
IDで重要な概念に「ARCS動機づけモデル」(ケラー)というものがあります。これは、「面白そうだな→注意:Attention」「やりがいがありそうだな→関連性:Relevance」「やればできそうだな→自身:Confidence」「やってよかったな→満足感:Satisfaction」の4要因から成る、心理学研究などに基づいたモデルで、学習意欲を身につけさせる教授法の条件として極めて重要なものとされています。
IDの視点で、大学教育をデザインする際の鳥瞰図を描くことができます。まず、「出口」(卒業生につける実力(知識・スキル・態度))を考えます。そして、それを達成する条件としての「入口」(入学生に求めることが可能な資質)を考えます。最後に、入り口と出口を繋ぐ「成長プロセス」を考えます。「成長プロセス」は科目横断指針である教育理念と、カリキュラム構成、さらに、科目単位認定要件(到達目標と評価手法)の三段階から構成されます。
また、IDの視点でe-learningを考えると、「レベル1:わかりやすさ(情報デザインの要件)」を中心に、より高次の要件として「レベル2:学びやすさ(学習効果の要件)」「レベル3:学びたさ(魅力の要件)」があります。逆に、これらを支えるより低次の要件として「レベル0:うそのなさ」「レベル−1:いらつきのなさ(精神衛生上の要件)」があります。
これらを考えながら、e-learningや、ひいては大学教育全体を改善していくわけですが、その際、単に「コンテンツ」をデザインするだけではなく、それを実際に授業でどう展開するかという「アクティビティ」のデザイン、それらを支える「システム」のデザイン、さらには、現状から、描いた目標状態に至るまでの「変革プロセス」のデザインが求められます。
このように、インストラクショナルデザインの射程は極めて広いものであると言えましょう。インストラクショナルデザインと科学技術コミュニケーションは、考え方に共通する部分、互いに援用可能な部分も多いのではないかと思います。もちろん、目的が異なる活動ですのでそのまま利用することはできません。両者の共通性・異質性を意識しながら、実践に活かしていくことで、より効果的な科学技術コミュニケーションが可能となるのではないでしょうか。