9月14日には、モジュール5「多様な立場の理解1」の講義の第2回目として、CoSTEPの特任准教授である古田ゆかりさんに、「リビング・サイエンスの視点を取り入れていろいろな表現を考えよう」と題してお話しいただきました。
読者とは誰なのか?
フリーライターとしてご活躍されていた古田さんは、まず、記事を書くときの読者の想定の重要性をお話してくださいました。「自分が書きたいから書くだけでなく、相手が望んでいることをきちんと表現することが大事」と古田さんはおっしゃいました。この相手とは読者のことを指しますが、読者とはいったい誰なのでしょうか。
よく使われるのが、「主婦」「小学生」「中高年」という社会的属性での分類と、「中学校卒業程度」「高校卒業程度」という知識の段階での分類です。社会的属性や知識の段階による読者の想定は、読者が理解できるような記事を書くために有効です。しかし、それだけでは十分ではありません。
記事を書くうえでは、「読者が記事を読みたい気持ちになる」文章を書くことも大切です。古田さんは、そのためには、まず「読者は何を考えてこの文章を読むのか」「何をおもしろいと思うか」「どのような情報が心に引っかかるのか」といった、読者の「思考の文脈」を考えることが必要だとお話してくださいました。読者の「思考の文脈」を考えることで、関心のない読者でも、関心がわき出るような文脈を作ることができるのです。読者の「思考の文脈」を知るための方法としては、「情報を知りたい理由から読者を想定する」アプローチが有効です。たとえば「最近話題のテーマを深く知りたい」「身の回りの問題・心配を解決したい」「単純に楽しみたい」「仕事に生かしたい」といった理由などです。社会的属性や知識の段階だけでなく、「情報を知りたい理由」をふまえた読者の想定をすることで、読者が望んでいることをきちんと表現することができます。
リビング・サイエンス宣言とサイエンスカクテルプロジェクト
古田さんは、読者の想定例として、以前に手がけた記事を紹介してくださいました。30~70代の家庭を持った女性向けの雑誌に執筆していた科学に関する記事のことです。このときの読者の想定として、まず「科学の勉強をしたいからこの記事を読むわけではない」ということが考えられました。そこで、「科学」という言葉を使わないことにしました。また、読者の知りたいこととして、「どっちのお鍋が焦げ付きにくいかしら」「電子レンジとコンロ、どっちを使ったら安いかしら」などを想定しました。つまり、「合理的に利用するために、生活の中にある科学や技術を知りたい」という理由を想定して、記事を執筆していたそうです。科学をイチから学びなおすのではなく、身近なものから科学を知っていく。このような考え方を、古田さんは「リビング・サイエンス宣言」という形で示していました。
また、古田さんはNPO「サイエンスカクテルプロジェクト」という活動を通じて、生活、社会、歴史、経済などと組み合わせる科学の学びを開発することも行っています。今回は、科学館と共同で行っている事例を紹介して下さいました。家電製品とくらしを結びつけたイベントは、子供向けだったにもかかわらず、多くの大人からも人気を集め、広い世代に科学の学びの場を提供することができたそうです。
ついつい使いがちな「一般市民」という言葉ですが、「一般市民」として想定する読者が異なれば、その伝え方も異なってくるということを感じる授業でした。また、科学技術の伝え方として、生活を軸にして発想することの有効さを知ることができました。古田先生ありがとうございました。