9月28日にモジュール5「多様な立場の理解1」の第3回目の講義が行われました。今回は東京大学大学院理学系研究科・准教授の横山広美さんに「大学広報と科学コミュニケーション」と題してお話いただきました。
レポート:神村奏恵(本科・北大理学院自然史科学専攻修士課程1年)
横山さんと科学のおはなし
はじめに、横山さんが科学に興味を持ったきっかけをお話してくださいました。文学少女であった横山さんは、中学2年生のときに友人の母親から紹介された雑誌「Newton」に掲載されていた宇宙論の話を読んで衝撃を受け、それ以後、常に科学雑誌を持ち歩くほど愛読なさり、「将来は科学の記事を書く人になりたい」という夢を抱いたそうです。科学の記事を書くためには、科学について知っておく必要がある、と思った横山さんは、大学で物理を専攻し、素粒子の研究に携わられました。また、修士2年のときには夢を叶え、 “子供の科学”の執筆もなさっていました。修士のときには編集者を目指して就活を行っていたそうですが、出版社の方の「書き手になりたいなら編集者ではなくライターを目指した方がよい」という助言や、大学の指導教官の「もう少し大学に残らないかと」いう言葉を受け、博士課程に進むことを決めたそうです。
事故からの復活、社会と科学の関係
次に横山さんは、広報の重要性に気付いた出来事をお話くださいました。横山さんは、博士課程のとき、スーパーカミオカンデという装置を使った世界の最先端をいくビッグプロジェクト研究に関わっていらっしゃいました。ところが、博士1年の時、スーパーカミオカンデで使用していたセンサーのうち3分の2が壊れる大事故が起きたのです。事故を知ったとき、横山さんは「これだけの大きなプロジェクトが事故を起こしてしまったのだから、日本のニュートリノ研究は終わってしまうだろう」と思ったそうです。プロジェクトに関わっていた横山さんでしたが、事故の写真を最初に目撃したのは、共同研究者からのメールなどではなく、読売新聞のウェブサイトでした。プロジェクト長の先生が、事故発生後すぐにメディアへ情報を公開したのです。また、共同研究者へは、具体的なプランとともに「必ず実験を再開する」というプロジェクト長からの強いメッセージが届きました。大事故を速やかに公開したプロジェクト長の真摯な研究態度と、強いリーダーシップが評価され、事故を知った社会からも応援を受けることができました。その結果、スーパーカミオカンデを利用する実験を再開することができたそうです。このとき、横山さんは社会と科学の関係を強く意識したのだとおっしゃっていました。
科学広報と科学コミュニケーション
また、広報や科学コミュニケーションの定義やポイントについてお話くださいました。広報とは、非営利、公共性を強調し双方向性をもって広く知らせることです。また、外部に向けての広報だけでなく“内部広報”も、自分たちが目指しているものを共有し、構成員の意識をまとめるために重要です。さらに、よい広報の特徴としては、組織の経営層を動かせること、時間や予算が限られた中で最高のパフォーマンスをすること、受け手からの反応で自己修正を行なうことを挙げられていました。また、“科学広報”は、一般の広報と異なって説明責任の観点が強いこともご指摘くださいました。横山さんは、科学広報と科学コミュニケーションの違いとして、科学コミュニケーションは研究・教育目的の活動、広報は科学コミュニケーションの実践活動の一部、と考えているとおっしゃっていました。さらに、広報はステークホルダーがはっきりしているため、組織が関わっているものは広報ととらえやすいとも説明されました。ただ、科学広報と科学コミュニケーションの共通点は多く、科学広報と科学コミュニケーションの線引きは人それぞれだそうです。
今回は、ご自身の進路選択のお話から、広報のあり方まで、ご講義いただきました。広報の特徴・役割は、これから広報活動を行なううえでとても参考になるお話でした。横山さんありがとうございました。