講義モジュール6「トランスサイエンス」の第2回目は、北海道大学大学院情報科学研究科准教授の田中孝之さんに、「ロボットを通じた地域社会との連携〜軽労化RTから軽労化社会へ〜」と題してお話いただきました。
講義のはじめに田中さんは受講生に問いかけました。「皆さんが知っている、または想像する『ロボット』を思いつく限り挙げてください」。アシモのような二足歩行ロボットやパワースーツを挙げた人が多かったですが、産業用ロボットもいました。また、ほとんどの人がアニメや映画に出てくる架空のロボットを挙げていました。
このようにロボットには現実のものと架空のものが考えられますが、ロボット技術(RT)はいろいろなところで使われているのです。今回の震災による原発事故では外国産のロボットの活躍が報じられましたが、原発周辺で使われた遠隔操作可能な建設用重機にもRTが使われ、まさに「縁の下の力持ち」の役割を果たしています。
通常の人工物は、まず製品ができあがってから、それに名前やイメージがついてくるといえます。それに対して、ロボットで面白いのは、「ロボット」という言葉が1920年にできあがってから空想上のイメージがふくらみ、40年以上もたって1962年に世界で初めて現実のロボットが日の目を見、だんだんと普及してきた点にあります。
しかしロボットと人との間にまだまだ距離があります。その要因は安全面とコスト面です。後者についていえば、ロボットはあまり売れていません。それは、「ロボットができることは、人がだいたいできるから」だそうです。
「現場でのニーズをくみとり、技術開発することが大事」と力説する田中さん。初めてパワーアシスト装置を介護用に作ったとき、介護士に「重いし、使いづらい」と言われたそうです。そんななか、異業種交流会で、ある農業コンサルタントと出会い、農家で困っていることなどを聞きました。そこで「現場を見に行こう!」ということで、知り合いのメロン農家に行きました。農家の方は長時間、中腰の作業をすることで、腰痛の方が多いそうです。そこで、人ができることを楽にできるようにする「軽労化」が必要だと痛感し、スマートスーツの試作品を作り、農家の方にそれを着て農作業していただきました。当初は「暑い」とか、締め付けられて「痛い」などと散々言われたそうですが、改良を重ねた結果、笑顔で「コレいいよ!」と言われるようになりました。田中さんは「モノづくりで一番うれしい瞬間ですね」といいます。
いまでは農作業だけでなく、医療現場、競馬などで、作業する人の疲労感を減らすことに役だっています。さらに、今年4月には被災地での復旧作業支援に活用していただき、「腰が楽になり、疲れが軽くなった」と評価されそうです。
製品を作る過程で現場と連携して、ニーズを聞きながら改良することを心がけてきた田中さん。軽労化技術を普及するために、研究会を立ち上げました。そして現在、高齢化社会を豊かにする「ライフイノベーション」を実現するために、様々な地域、様々な分野の人々と協働して、「使いやすい技術」を研究・開発を重ねています。