実践+発信

「企業CSRにおける実験ワークショップ制作と実施」119/高倉弘二先生の講義レポート

2011.11.12

高倉弘二さんは、J-POWER(電源開発)の関連会社である株式会社ジェイペック若松環境研究所(福岡県北九州市)に勤めていらっしゃいます。

講義の前半では、企業CSRにおける実験ワークショップの実施方法についてお話し頂きました。受講生を半ば強引に(?)参加型の実験に巻き込みながら、森林や土壌、水循環の仕組みについてとても楽しく教えて下さいました。

後半は、世界各国で使われるようになった「魔法のバケツ」について。これは高倉さんが開発した、あっという間に生ゴミを堆肥に変えるという、驚くべき技術です。いまやJICAの青年海外協力隊が、アフリカや南米など様々な国でこの方法論を広めています。

まずはにぎやかな実験で授業が始まりました。発電用のダムに水を貯めるには、良質な水を集める必要があります。どんな森、どんな土なら、良い水が集められるのでしょうか。高倉さんがお茶や野菜ジュースを飲んで集めてくれたという20本のペットボトルや、キッチンペーパーなどを使って、手作り感あふれる実験でした。

最初は戸惑っていた受講生も、高倉さんのユーモアや勢いにのせられて、次第に自ら実験に参加するようになります。土壌の粒子が小さな塊を作っている「団粒構造」と、「粘土」では、雨水を取り込むスピードはどう変わるのか?そして、「土が水を保つ」とはどういうことなのか?健全な森では、地下水はどのように流れるのか?最後は、水力発電用ダムを模した装置に水を流し、発光ダイオードを赤く光らせました。

高倉さんの実験は、実際に手を動かして体験することで、見事にこうした森林土壌や水循環の仕組みが理解できるように作られています。また、常に受講生への問いかけと答えをもとに、ジョークを交えて引きつけながらテンポ良く双方向コミュニケーションを作る話術が、とても巧みでした。

後半は、先進国が途上国に技術援助を行うときの考え方についてです。高倉さんが訪れたインドネシアのある町では、埋め立て処分場にそのままゴミが積み上げられ、ひどい悪臭が漂っていました。またそこで資源ゴミをあさる人々が、ユンボに巻き込まれて死亡事故に遭うといった問題も多発していました。この状態を何とかできないかと高倉さんは、生ゴミを堆肥に変える技術を開発しようとしました。

しかし、現地の人々が期待するような、日本の高い技術力で問題を解決してしまったのでは、技術がブラックボックス化してしまい、帰国した後、持続的に使われません。このようにかつての日本の海外協力は、技術レベルを適正化できていないという問題点を抱えていました。高倉さんは全て材料を現地で調達して、誰でも作れるような装置にするべく町を奔走しました。

発酵させるために使う菌は、現地の人が食べているタロイモを発酵させた「タペ」という食べ物や、「テンペ」という納豆のような食品からとりました。また近くの森に行って放線菌も集めました。そして、生ゴミを入れる容器は、ホームセンターを5軒くらいまわって、ランドリーボックスを探してきたそうです。

こうした身近なものだけで作った装置で、わずか1〜2日で生ゴミが堆肥となり、匂いも全くしないという事実に現地の人々は驚きます。この「魔法のバケツ」、というより「魔法のバケツを身近な素材で作る技術」はインドネシア以外の国にもどんどん広がっています。

誰でも作れる形で技術を組み上げることが、技術の適正化である。

この高倉さんの信念は、今回のペットボトルの実験にも生かされています。科学者も専門用語や高度な技術の壁の中に安住せず、相手が受け取るレベルに応じて、コミュニケーションを適正化しないと、本当の意味で社会に開かれた知識にはならないのではないか。今回、高倉さんは自分の経験を通じて、そう語って下さっているのではないかと感じました。