実践+発信

ソーシャルデザイン実習が「空想植物図鑑青写真でうつす未来のアーカイブ–」を開催しました

2023.11.14

CoSTEP 19期 ソーシャルデザイン実習班

2023年8月6日(日)、北海道大学札幌研究林の実験苗畑にある「アノオンシツ」において、CoSTEP19期生 ソーシャルデザイン実習班によるワークショップ「空想植物図鑑 –青写真でうつす未来のアーカイブ–」を開催しました。本稿ではその様子と実施の裏側をご報告します。

今回のワークショップは1日に2回、10時の回と14時の回に分けて行いました。10時の回には8名、14時の回には7名の方が一般公募で集まり、参加してくださいました。

参加者の方々の受付を済ませると、さっそくワークショップスタート。なお参加者の皆さんには、募集にあたり、あらかじめ「自分が感光させてみたい物」を持参してきてもらうようお願いをしていました。

まず、自己紹介とともに、それぞれどんな物を持ってきたのか、そしてどうしてそれを持ってきたのか、その理由を説明してもらいました。

次に、青写真についての説明です。実は前日に「サイエンスパーク」にて、子どもたち向けの青写真ワークショップも実施していたので、その様子を参加者のみなさんにみてもらいました。

サイエンスパークでの「あおしゃしんをつくろう」ワークショップの様子はこちら(記事のリンクを貼る)

子どもたちの様子を見てもらったあとは、まずはお試し制作を開始。本制作に入る前に、まずは “青写真” がどんなものなのか、実際につくる体験を通じて知ってもらいます。

前日のワークショップでは「夏の思い出」がテーマでしたので、同じテーマで、参加者のみなさんにもやってみてもらいました。

制作の大まかな手順をスタッフから説明。そして、各テーブルごとに「夏の思い出」について話し合ってもらいました。

青写真の仕組み

紙に「クエン酸鉄アンモニウム」と「フェリシアン化カリウム」という、2つの薬品を混ぜたものを塗り、ここに日光(近紫外線)を当てて感光させると、薬品に含まれる鉄イオンが変化します。
その感光した紙を水でよく洗うと、日光が当たった部分だけに紺青と言われる顔料(色のもと)ができます。顔料は水に溶けないため紙に残り、それ以外の部分の薬品は流れていきます。
このように、感光した部分は青くなり、物を置くなどして影になっていた部分は白っぽくなるというコントラストができることで、像を紙に焼き付けることができるのです。

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それぞれつくってみたいイメージが決まったら、参加者のみなさんが持参した物と、こちらで用意した物からも自由に道具を選んで、見本の紙にレイアウトしていきます。

レイアウトが決まったら、感光紙を取り出して同じようにモノを並べ、感光していきます。本来であれば日光によって感光をさせる “青写真” なのですが、この日は朝から生憎の曇り空・・・。全く感光できないことはないのですが、もしものことを考えて事前に用意していた ”特製UVライト” も使って、紫外線の照射を追加しました。

十分に感光ができた方から順番に、洗い場で感光紙を洗い、余分な薬品を洗い流していきます。洗った感光紙を机に並べて乾燥させていると、徐々に図が浮かび上がってきました。

各グループの作品をお互いに巡回して見ながら、どんなイメージをつくったのか、一人ひとりで解説をしてもらい、聞いていきます。

佐藤グループ

自宅から持参してきてくださった観葉植物の葉や、海の生き物のアクセサリーなどの思い入れある物の影を写していました。

堀内グループ

車にのってフェスに行った思い出や、夏の日差しの中でメガネを干している様子など。

柳田グループ

来る途中で買った食べ物とそのパッケージ、周りに落ちていた木の葉、石を組み合わせて、どんな形が出るかを確認してみていました。


お試し制作をやってみたら、次はいよいよ、今回のテーマである青写真を使った「空想植物図鑑」の制作にチャレンジしてもらいます。そもそも「空想植物図鑑」とは、”青写真” 発明のもととなったさまざまな史実を元に考えた、フィクションのストーリーのフレームです。そのストーリーとは以下のようなもの。

これは空想上のつくり話。

ある博士が、イタリアへ新婚旅行に行ったときのこと。
美しい自然に心惹かれた博士は、妻と目にしたこの素晴らしい風景を
永遠に残す方法はないものかと考えた。
研究に研究を重ね、博士はやがて、日光を使って像を紙に焼き付けるという方法で
思い出を永遠のものとすることに成功した。

ある女性写真家が、さまざまな植物を集めていた。
女性は、時間が経つにつれてしおれてしまう、この美しい植物たちの形を
永遠に残す方法はないものかと考えた。
そこで女性は、ある博士に、日光を使って像を紙に焼き付ける技術を教えを乞うた。
女性は家のまわりの植物をせっせと集めては、図鑑におさめるようになった。
図鑑は幻想的な出来栄えとなり、その技術はやがて 青写真 と呼ばれるようになった。
女性は、もっともっと、たくさんの美しい植物図鑑たちが、
これからもずっと、生まれますようにと願った。

やがて時は流れて。
世界中では日々、この女性写真家の遺志を継いで
今でもたくさんの「空想植物図鑑」たちがつくられているという。
彼女の残した図鑑は、こうして未来へと続く、青写真となったのだ。
そして、メモ帳も、テープレコーダーも、写真も、ビデオも。
みんなそんな風に、人が存在していた証を残し続けるためにあるのだろう。

これから100年後の未来。
地球環境も、技術も、社会も大きく変わっているだろう。
その未来の図鑑には、いったいどんな植物たちがおさめられているだろうか。

未来の植物を想像し、その影を青写真に写す「空想植物図鑑」。

「さあ、未来の植物図鑑をつくりましょう」

このストーリーの朗読をみんなで聞いたあと、それぞれが思う未来の「植物図鑑」について話し合いながら考えていただきました。テーマは「100年後の未来」。例えば100年後、きっと地球環境も、技術も、社会の状況も今とは変わっていることでしょう。 そんな未来にありそう、あったらいいな、と思う「植物」たちを空想し、青写真にするテーマを構想することからスタートです。

参加者のみなさんに考えてもらうためのヒントとして、ソーシャルデザイン実習班スタッフの方からも、自分たちの関心や研究領域に沿って、自分たちが思う未来の「植物図鑑」についてお話をさせていただきました。

何を作るかテーマが決まったら、先ほどと同様に、棚に並べてある道具から使うものを選び、紙に乗せてレイアウトを決めてもらいます。一度お試し制作をしているので、みなさんさらに工夫を凝らしているようでした。

前半と同じく、日光とUVライトで十分に感光させたら、洗い場で感光紙を洗浄していきます。

参加者のみなさんの作品紹介

堀内グループ

変わりゆく人工物のそばで、ずっと変わらずにいる大樹、人を笑顔にする花々などを制作してくださいました。

吉田・佐藤グループ

思い出の品を使って作ってくれた作品です。そろばんの玉を種に見立てた植物を考えてくれました。

柳田グループ

食べ物を使っての作品。右上は「生ハム」を使って、「肉の味のする豆(代替ミート)」という植物を作ったそうです。

参加者のみなさんが制作した作品は、家で飾っていただける台紙キットとともにお持ち帰りいただき、1回目のワークショップは終了しました。

参加者のみなさんからの感想(1回目のアンケートより)

  • 植物をテーマにさまざまな方の考えを聞くことができて良かった。
  • もっと青写真を作成することは難しいと思っていたので、こんなに手軽にできるんだと驚きました。普段みているものや反対にあまり見ないもの、気に留めないことを新たな視点から考える貴重な経験になりました。
  • 青写真のことは全く知らずに参加しましたが、まずやってみることで、手を動かしながら楽しめて良かったです。
  • 立体が、どう平面になるかを想像するのが面白かったです。他の参加者の発想力が豊かでした。特に「100年後、今の課題が植物によってどう解決されているか」という視点が新鮮でした。
  • 見た目と出来上がりが違うことがとても面白かったです。
  • アイディアを限られた時間で思いついて形にしていくのは難しくもあったが、出来上がったものから想像力を膨らませてアイディアを逆輸入できる面白さもあった。
  • 晴れた日に感光したらどうなるか、途中で素材を動かしたらどうなるか、いろいろ試したくなった。サイアノタイプのチャレンジハードルを少し下げてもらえたので、自分でもやってみたいと思った。
  • 最初は見本が見たいと思ったけど、見本がなかったから想像するのが楽しかったです。
  • なぜ写真を撮るのか考えると、普通は過去の出来事を残したいという気持ちだけれど、今回は未来について思い巡らすための写真、まさに青写真というのが素敵だなと思った。

続く14時の回、ワークショップの2回目には7名の方が参加してくれました。今回も参加者のみなさんそれぞれの自己紹介と、どんな物を持ってきたのか、どうしてそのものを持ってきたのか、理由の説明からスタートです。

続いて、まずはお試し制作。「夏の思い出」をテーマに、各テーブルごとに好きなオブジェクトを選び、紙に並べながらイメージを考えていきます。

2回目のワークショップの時は、少し日差しが出てきて、太陽光だけでも感光ができそうなほどになっていました。念の為、UVライトも少し追加で当てておきます。次に、各グループごとに、お互いがつくった作品について、巡回しながら見ていきました。素材によって写る影が予想と違っていた、という声もちらほら聞かれていましたよ。

堀内・佐藤グループ

家で植物を育てている様子と、夜の海に小舟が浮かんでいるという想像上の夏の思い出。

吉田グループ

左上の写真はペットと遊んだ思い出を、ペットのおもちゃを使って表現してくれました。

柳田グループ

猫のつめに引っかかれた様子でしょうか。丁度良い形のオブジェクトがありました。いろいろなものを置いて試してみました。


ここから「空想植物図鑑」の説明の、ストーリーの紹介に入ります。その後、各テーブルで自分の思う「100年後の未来」の植物について語り合いました。

今回はご自身が研究者の方の参加も多く、自身の研究テーマや関心に応じた未来の植物のアイディアが飛び交っていました。

参加者のみなさんの作品紹介

堀内・佐藤グループ

蚊を食べる食虫植物、森のことについて教えてくれる長老の木、人々の村で共同生活をする森など。

吉田グループ

“どんな見た目か” ではなく、“どんな中身の植物か” を考えてくれた人もいました。植物の内部がフィルターのようになっていて、ゴミの回収に一役買ってくれる植物を考えてくれました。

柳田グループ

青いネットをひねりながら置いてみました。青写真にすると、不思議な生き物ような形になりました。ミドリムシ的な植物をイメージしたそうです。

参加者のみなさんからの感想(2回目のアンケートより)

  • 思ったようにいかなかった点もあったけど、おもしろかった。
  • ストーリーを作るのが難しい。自分の何に結びつけるかを決めるまで迷ってしまいました。想定通りの形にならなかったのが残念。
  • 他の参加者の発想やつくりかたが興味深かった。
  • テーマに沿って作品の意味を考えるのが少し難しかった。
  • 物の見方が変わりました。どんな物も工夫次第で、アート作品になり得るんだなあと思いました。
  • 青写真の色や素朴さが好きになりました。

ソーシャルデザイン班からの振り返り

みなさん、様々なモノを持参されて、また会場にあるオブジェクトも組み合わせて、それぞれ独創的な作品を制作されました。こちらからあれこれと指示をせずとも、それぞれ趣向を凝らそうと試行錯誤されていました。

ほとんどの人にとって、青写真を見ること・つくること自体が初めてで、まずその体験自体を楽しんでいただけたようです。そしてそれだけでなく、それを「未来」について考える題材として、それぞれの作品背景を考えて披露しており、堅苦しくない、少し違った角度からの対話の場となったのではないかと考えています。

このような制作体験は、主体的な参加を促しますし、また、これまでに考えていなかった発想を広げることにも効果的でしょう。これからのサイエンスコミュニケーション活動では、このように創造的なワークを取り入れることも一つの方向性として探求できると思います。

本記事は、2023年度(19期)のソーシャルデザイン実習で実施したサイエンスイベント「あおしゃしんを作ろう」の報告記事です。このイベントは、サイエンスパークのワークショップの一つとして開催されました。また、このイベントは、翌日に「アノオンシツ」開催した「空想植物図鑑 –青写真でうつす未来のアーカイブ–」と関連しています。ぜひ、そちらの報告記事もご覧ください。