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モジュール5-1「性の多様性と科学:「セックスは、つねにすでにジェンダーである」こと」(11/18)満島てる子先生講義レポート

2023.11.28

金光由夏(2023年度選科A/学生)

今回の講義は,LGBTQ(性的マイノリティ)の当事者として社会に問題提起し続ける満島てる子さん(さっぽろレインボープライド実行委員会 副実行委員長/7丁目のパウダールーム店長)を講師に迎え,『性の多様性と科学「セックスとは常にジェンダーである」こと』と題して行われました。
満島さんは北大文学研究科修士課程を修了されており,現在はHBCWEBマガジンでのコラムやテレビ番組のコメンテーター,北大でのセクシュアリティ研究会の開催などと多方面で活動していらっしゃいます。複雑な科学の問題には,多様なステークホルダーと向き合うことが必要不可欠です。この講義では,LGBTQに関する基礎知識を出発点とし,性の多様性,また性的マイノリティの現状について自分事として捉えるためにはどのような見地が必要かについて述べられました。

「LGBTQ」って何?

近年よく知られるようになったLGBTとは,Lesbian(レズビアン),Gay(ゲイ),Bisexual(バイセクシュアル),Transgender(トランスジェンダー),Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング)5つの頭文字をとってできた単語です。これらの個々の性については,当座においては①生物学的性②性自認③性指向④性表現の4点から記述することができます。

(授業冒頭、言葉の定義についてのまとめ)

ここで,2015年の電通ダイバーシティ・ラボの研究報告より,当事者の中でも話題となった「セクシャリティツリー」を例に話を進めてみましょう。カラダの性,ココロの性,スキになる性の3段階で枝分かれしていくこの図を用いることによって,当事者は自己紹介がしやすくなり,自分に対する誤解も防ぐことができるようになりました。例えば,講師の満島さんの場合,自分のことを男性だと思っていてスキになる性は男性なので,この図では1に当てはまります。しかし,女性のお客さんに,「あなたは女の子の心を持っているから,相談しやすい」と言われることがあるそうです。そのような場合は,この図を用いて自分は4ではなく1なのだと,訂正することができます。この図の中では,1だけでなく7もゲイであり,11だけでなく5もレズビアンと自認できます。そのため,LGBTQと横並びに表現されていても,要素同士は独立した別個のものではなく,トランスジェンダーのゲイ,トランスジェンダーのレズビアンなど,重なり合う多様な性のあり方があります。しかし,この図にも分け方が男女しかない,性愛の対照を持たない人やどんな性でも性愛の対象になる人が含まれていないなどの問題点があります。
多様なセクシャリティのあり方を主流と傍流に分けかねないLGBTという表現を苦手とする人もおり,現在はマジョリティとマイノリティとの間に境を設けないSOGIE(sexual orientation, gender identitiy and expression) という表現が国連から推奨されています。しかし,境を無くすことで,「みんな違ってみんないいから何もしなくていい」という視点が生まれ,現状の当事者の問題が見落とされる可能性もあります。

(「セクシャリティツリー」をもとに説明する満島先生)
日本という国と「LGBT」

LGBTに関わる諸問題は,社会問題としてクリアされなくてはならないものです。しかし,LGBTに対してネガティブな主張が記されたパンフレットが国会議員に配布されたり,一部の議員が「LGBTは人口が少ないから金を使う必要は無い」という旨の主張をしたりと,当事者を取り巻く状況は厳しいと言わざるを得ません。
LGBTは決して少ない人数ではなく,電通ダイバーシティ・ラボ (2023年)の調査では人口の9.7%,つまり約10人に1人 とされています。この割合は,「左利き」「AB型」に近い割合です。当事者の存在が過小に推測されがちな背景には,相当数の当事者が当事者であることを公言していないことにあります。満島さん自身も小学生の頃「オカマ」と呼ばれ壮絶なイジメを経験しています。当事者の3人に2人が自殺について考えたことがあるという衝撃的な統計も存在し,当事者の孤立は深刻です。
現行の地方自治体によるパートナーシップ制度には法的効力は無いため十分とは言えず,最近成立した理解増進法も,政府の権限で当事者の社会運動を規制する余地があり,満足なものとは言えません。

セックスとジェンダーの関係性

近年の社会では生物学的性(セックス)を社会的性(ジェンダー)に先立つより本質的で安定したものとみなす動きがあります。現在は外性器の形状のみで性別を決定していますが,分子生物学の進歩により性決定のプロセスが長期にわたる細かい作用の折り重なりにより行われることが明らかになり,一塊としてのセックスは生物学的事実の中には存在しません。そもそも生物の性は多様な「セックス」から成り立っているのです。
現代のフェミニズムを推し進めた「ジェンダー・トラブル」の著者であるバトラーは,生まれ持った生物学的な性(ここで言うセックスにも該当)だと思われているものは、実は「生まれ持った」という印象すら社会の中で作られているもの (ジェンダー) だと主張しています。つまり,ジェンダーとセックスは不可分であり,生物学という科学が人間の営みである以上,文化的な要素も孕んでいるセックスだけが不可逆で不変のものではないのです。
満島さんは『生物学的性(セックス)についての知識もジェンダー同様アップデートされ,「科学による意にそぐわぬ差別」を回避するためにも,科学技術コミュニケーション的な取り組みが必要なのではないでしょうか。』と,この講義を結びました。

(当日は色々な質問がでました)
(満島先生、ありがとうございました)
あとがき

「困っている人たちが言わないと議論は始まらない。だから,少数者からの問題提起はすごく重要なんです」(荒井裕樹 『障害者ってだれのこと?』から)マジョリティ/マイノリティは人数の大小でなく,社会的に強い力を持ち,メジャーかどうかで決まります。それゆえ,仕組みを整え,場を仕切る側がマジョリティであるなら,苦しんでいる側から声が上がらないと社会は変わらないと,文学と障害者文化の研究者である荒井氏は主張しました。性的マイノリティをめぐる昨今の状況についても,同じことが言えるのではないでしょうか。
筆者が4回生の冬,進まない卒業研究とつのる孤独感に耐えかね,豊平川に向かったことがありました。しかしふと,どうせ死ぬなら宵越しの銭は持たぬと思ってその夜訪れたのが,満島さんのお店の系列店であるセクシャリティフリーのダイニングバー「7丁目のママ」でした。そこで,愚痴を話すうちに,「一生懸命勉強や仕事を頑張った結果結婚できなくて1人になるなら今死にたい」とこぼしてしまいました。
その時のキャストの方からの言葉が,心に残っています。「何言ってんのアンタ,そんなのアタシ達はみんな一緒よ,結婚できる権利もないんだから」と,飄々と言われたのです。私は自分のあまりの無神経さに穴が無くても掘って入りたいような,大変申し訳なく恥ずかしい気持ちでいっぱいになり,あれ以来,無神経な私とたくさん話をしてくれた皆さんへの感謝を,どのように表現したらよいか,度々思い出しては考えていました。このレポートを書き,学びを深めることが,少しでも贖罪になればよいと思っています。また,レインボーのアイテムも早速買い,微力ながら応援することにしました。おしゃれなアクセサリーも多かったので,皆さんもぜひ。