実践+発信

モジュール3-4「観察と発見のデザイン」(10/11)三澤遥先生講義レポート

2024.3.4

小林香絵(2023年度選科C/社会人)

2023年10月11日、モジュール3「活動のためのデザイン」4つ目の講義は、日本デザインセンター三澤デザイン研究室 室長の三澤遥先生にご登壇いただきました。展示の設営会場から、オンラインで講義をしてくださいました。
今回の講義テーマは「観察と発見のデザイン」です。CoSTEPの講義でもデザインは理解を促すためのツールであるといわれ、思い返せば、デザインによって視点が変わったり、デザインが自分のなかの常識を考え直すきっかけになった経験があります。デザインとは気付きを生むものであると考えます。講義では、展示、印刷物、映像などの媒体で活躍されている三澤先生の事例を交えながら、デザインとはどういうものなのかをお話いただきました。

1.展示の工夫

『WHO ARE WE 観察と発見の生物学』とは国立科学博物館の企画展で、ヨシモトコレクションを中心に集めた剥製の収蔵品展です。山や森の中では能動的に観察しますが、博物館では言われた通りに見る流れになると三澤先生は仰います。博物館で皆さんはどのように展示をみていますか。私も流れに沿って受け身で展示を見ています。博物館で能動的に観察するとは、どのようにすればいいのでしょうか。能動的に見るには、自分で手を動かすことが必要です。博物館でも自分で観察できて自分で発見するような展示ができないか、という想いからスタートし、「観察と発見」というキーワードに繋がっているそうです。

(『WHO ARE WE 観察と発見の生物学』は 2022年8月5日(金)から10月10日(月・祝)まで 国立科学博物館で開催されたhttps://www.ndc.co.jp/works/who-are-we-2021/ より)

『WHO ARE WE』の展示会場は、46の引き出し、白い札、木の塊と剥製が置いてある空間です。自分で引き出しを開けて中を見るという体験型の一連の動作は、自分で手を動かす、まさに能動的な観察です。引き出しは開けるまで中は見えず、それがワクワクに繋がります。

(WHO ARE WEの引き出しの様子 https://www.ndc.co.jp/works/who-are-we-2021/ より)
2.視点の変化で気付きを促す

展示を見る側自身での気付きを大切にしているため、キャプションはすべて15秒程度で読める長さになっています。剥製を見る→引き出しを開ける→中を見る→再び剥製を見る。そうすると、剥製が最初に見たときとは違うもののように見える仕組みです。視点が変わることで、全く違うものに見える経験はあると思います。今まで知っていると思っていたことでも、視点が変わることで、そういえば何でだろう?と考えるきっかけになります。『WHO ARE WE』の展示では、わからないことを知ることが大事なポイントになっているということがよく分かります。ウシ科とシカ科の角の種類の違いを考えたことはありますか?すごいことではないけれど、違いが分かるとちょっとだけ楽しくなります。その積み重ねができたら、日常が豊かで楽しくなるはずです。

3.引き算して気付きをたすける

デザインはノイズを消して、引き算をする作業だと三澤先生は仰います。今回の展示では引き出しがキーになっていますが、引き出しの体験型展示での引き算とはどういったことになるのでしょうか。
展示では、いかに集中して見てもらうかということが徹底されました。引き出しにはレールがあります。
引き出しを開け、銀色のレールが視界に入ったとき、何を感じるでしょうか。きっと先ず最初に「おぉ。これは引き出しだ」と感じます。この情報がノイズです。このノイズを引き算するためにレールを見えないところに隠し、その結果、集中して引き出しの中を見ることができるようになります。余計なノイズを消して、気付きをたすけることに繋がっています。

(展示の様子 https://www.ndc.co.jp/works/who-are-we-2021/ より)
4.これまでやってきたこと、これからも続けていくこと

2022年12月10日~2023年3月5日まで展覧会「富山県美術館開館5周年記念
デザインスコープ―のぞく ふしぎ きづく ふしぎ」で展示されていた「動紙(展覧会正式タイトルは『紙が動くと』)」が紹介されました 。「動紙」はtakeo paper show 2018「precision」でも出展された作品です。2018年から5年目、三澤研究室ではずっと作り続けている作品です。「つくることで考えて、つくることで知って、つくることでしか辿り着けないところへいく」というのが研究室の考え方です。紙に意志があるかのように危なっかしく一生懸命に動く姿をみた子供達は、頑張れを応援してくれたそうです。今まで知らなかった紙の新しい一面、可愛らしさや健気さに初めて気が付きました。これもまた発見です。今後も「動紙」は継続的に研究を続けられるとのことで、これからの紙の新しい可能性を見ることが楽しみになりました。

(「動紙」の一例 https://misawa.ndc.co.jp/works/808/ より)
5.最後に

講義を聴いて、「知ったつもりになっているけど実は知らないこと」が凄く多いのではないかと思いました。知らないことに気が付くためにはきっかけが必要で、そのきっかけを作ってくれるのがデザインです。知らないことに気が付けば、考えることに繋がっていきます。考えることに繋がるきっかけを作ることが科学技術コミュニケーターの役割のひとつだと思います。
デザインは表面的なものではなく、どうやって伝えるかというコミュニケーションだと三澤先生はおっしゃいました。つまり何を削ぎ落とし、何を残すのか、ということです。これからはこれまでとは違う、どのように伝えるのかというデザインの視点をもって様々な媒体を見ると思います。今回の講義を通して、これまでと違う視点でデザインをみることができるようなった気がします。

また、「つくることで知る」、「体験をつくっていく」ということが印象的でした。思いもかけない人との出会いや共に仕事をすること、そして知らなかったことを知る。学びは体験をつくるということを考えさせられた講義でした。貴重なお話を共有していただき、ありがとうございました。

(講義後の記念撮影。三澤先生ありがとうございました。)