実践+発信

「これからの防災教育のあり方を考える」/66 矢守克也先生の講義レポート

2012.6.16

6月6日は,京都大学防災研究所の矢守克也先生による講義「これからの防災教育のあり方を考える」が行われました。矢守先生は,多数の著書を出版されているだけでなく、様々な地域でその実践も行われている,防災教育のスペシャリストです。

 

防災をゲームで学ぶ:クロスロード

まずは,「Yes/Noカード」を使ったクロスロードの体験から授業が始まりました。5人のグループを作り,「大地震発生の直後にあなたは会社に出勤しますか?」という問題に対して,それぞれがYesかNoをカードで回答しました。その後,一人一人の回答の理由をグループで話し合いました。グループによって結果は様々でしたが、教室全体ではYesとNoがほぼ半分になっていました。

このクロスロードは「正解のない問題で,とっさの判断を磨く」ことを目指して作られています。大震災が起こった時は,判断を迫られることの連続です。何らかの決断をし,行動を起こさないといけません。そのような心構えを作ることに役立ててほしいという制作者の想いが,ゲームの体験と先生のお話から伝わってきました。

矢守先生は,阪神淡路大震災から数年後,被災者へのインタビューを行い,たくさんの貴重な体験談を集められました。先生は,これらの情報を人々に効果的に伝えるためには,メディアを変える必要があると感じたそうです。その結果生まれたのが「クロスロード」です。興味のない人にも,ゲームを通して当事者観を持ってもらい,これから伝える内容を知りたいと思わせる工夫が,このクロスロードには施されています。

災害の記憶を次世代に伝える:災害メモリアルKOBE

「災害メモリアルKOBE」とは,阪神淡路大震災の経験を風化させないために,大震災の記憶を次世代に伝えていこうというイベントです。2009年には,震災当時小学1年生だった女性と,レスキュー隊の隊長だった父親がそろって講演を行いました。その女性は震災後,父親と同じ消防士になりました。当時父親の行動をどのように思ったのか,そのイベントでのお話の一部をビデオで視聴しました。その話に真剣に聞き入っている,現在の小学生たちの様子を見て,このイベント持つ意味を考えさせられました。同じ情報でも,伝え方によってはインパクトが変わります。効果的に情報を伝える工夫をすることで,震災の記憶の風化を防げるということを学びました。

矢守先生は、授業の中で「このイベントは賞味期限がある」とおっしゃっていました。震災当時幼かった子どもたちが,大人として成長し,お話できる今だからこそできることなのだそうです。また,震災のもたらしたものは,震災を経験した子どもたちとその子どもたちのその後の活躍だともお話してくださいました。

昨年3月11日の大震災では,多くのものが失われました。しかし,その震災でも,きっと同じように震災を経験したかけがえのない子どもたちがいるはずです。その子どもたちが大人になった時,その経験を次世代に伝えていくお手伝いをするのは,私たちコミュニケーターなのではないかと考えさせられる内容でした。

 

                                                                                               西野 明理沙 (2012年度CoSTEP本科生)