実践+発信

モジュール2-2「映像メディアによる科学技術コミュニケーション」(6/29)早岡英介先生講義レポート

2024.7.24

佐藤 太生(2024年対話の場の創造実習/学生)

今回の講義では、早岡英介先生(北海道大学CoSTEP客員教授, 羽衣国際大学教授)にお越しいただきました。先生は自身の報道記者やテレビディレクターとしてメディアコミュニケーションの経験を活かして「映像メディアと科学技術コミュニケーション~最近の仕事から~」と題して、映像制作の幅広い分野について4つのテーマについてお話しいただきました。

(関西から来札された早岡先生。暑さにあまり変わりがない札幌に辟易とされた様子でした)
1. 映像の特性

まずは、ひとつめ「映像の特性」についてです。先生が北海道大学で制作している「知のフィールド」1)という作品をもとに映像によるコミュニケーションの特性を学びました。

特に、映像、つまり「ビジュアル」で伝わることが興味のきっかけとして非常に重要です。これは早岡先生の新聞記者として活字で伝えるという経験と、テレビ業界での「ビジュアル」で伝えるという経験から、映像の特性として、「事実よりも感情を共有する」という点を意識するのが映像を制作するうえで重要となってきます。

例えばテレビでは、北見の気温が高い、という情報を伝える際に、市民の方にインタビューします。ですが、気温が高いという情報を伝えるだけならば、最高気温などの情報を伝えるだけで十分なはずです。ですがあえて、テレビはインタビューという方法をとることによって、感情を伝えるのです。また、日本のテレビ番組は情報量が多い傾向があるという話もあります。NHKの生き物を紹介する番組、「ダーウィンが来た!」2)の「ヒゲじい」のような存在は珍しいそうで、国外でのアーティスティックな映像を求める傾向とは違うそうです。

早岡先生が制作に携わっている映像でも、このような映像の特性と活かすことを意識しているといいます。それは、北大を紹介する番組、「知のフィールド」です。この番組は、自然豊かな研究施設やそこで活動する学生や研究員などを紹介することを通じて、北大へのあこがれをなんとなく共有するということを狙っているそうです。論理的な情報も紹介するそうですが、そのような情報は文字媒体に任せ、より感情の盛り上がりを伝えたい、という思いのこもった映像は、まさに北大の魅力を感じることのできるものだと感じました。

(講義では「知のフィールド#8天塩研究林」3)の動画を紹介されました)
2. コミュニケーションを蓄積する重要性

次に、「コミュニケーションを蓄積する重要性」です。早岡先生は、研究のアウトリーチに携わる中で、リアルなコミュニケーションの重要性を感じているといいます。日常でもコミュニケーションをとるうえで、その信頼を構築することが重要です。チャットやメッセージよりも電話のほうが、対面のほうが、そして会食などのほうが構築しやすいのです。このような信頼をつくるために、コンテンツ体験を通じて感覚的な記憶をつくり、会話をつくっていくことが大事だと指摘します。つまり、イベントをつくるとき、その本番には来てくれた人とのコミュニケーションの総量を増やすころを意識するのが重要とのことです。

また、イベントをコンテンツの「質」にとらわれてしまうときがあるといいます。でも一番大事なのは信頼を構築していくということ、これを通じて円滑なコミュニケーションに繋げることです。

3. 映像制作のプロセス

次に、映像制作のプロセスについてです。

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)という基礎研究を推進する機関の広報映像4)を題材にお話ししていただきました。早岡先生が強調されていたのが努力すればおもしろい映像できるというわけではない、ということです。先生が、携わった映像で、半年以上にわたって苦戦してつくりあげたものでも、アンケートを手厳しいコメントが多かったこともあったとのことです。

(JST広報戦略チームと一緒に制作した動画4)は紙粘土のキャラクターを動かし、かなり手が混んだ作りになっているとのこと)

そして、Nuggets5)という映像作品をもとにコミュニケーターとしてやるべきことを考えました。薬物依存の怖さを伝えるものですが、ダイレクトに薬物は怖いよと伝えるものではありません。小鳥のようなキャラクターが薬物を吸ううちに、世界からどんどん色がなくなっていき、自らを傷つけていく様子を表現しています。

先生は「コミュニケーターは解釈して、自分なりの表現で企画して、本質だけを表現するという方向性で作っている。」と指摘します。事実関係をもとに解釈することでことばではなくても子どもでもわかることのできる、というものを作っていくのが大事だといいます。

また、最近は「インハウスクリエイター」と呼ばれる人が増えているとのことです。これは外部に政策を依頼するのではなく、自分たちで映像やデザインを行うということです。早岡先生は、CoSTEPを修了したあとも、番組をつくったり記者になったりすることはあまりないかもしれないが、このようなことを行う場合もあるということを話してくださいました。

4. 生成AIの社会への浸透とリスク

そして最後に、生成AIについてです。先生は、いままで科学技術コミュニケーターとして問題に取り組む中で扱う様々な課題に対して、中立的な立場でいることを心掛けているとのことでしたが、この生成AIについては、専門家のような気持ちで取り組んでいるといいます。この背景には、長年生成AIに活用について取り組んできたという背景があるそうです。そんな早岡先生は、この生成AIについて、人々の潜在的な不安や不信感を指摘しつつも、なにか新しいジャンルが生まれるのではないかと考えているといいます。

(高校生と大学生対象の生成AIに対するアンケート結果。肯定的評価が優位ではあるが、否定的評価も無視できない)

また、AIに関連するリスクとして、著作権の侵害など法的な観点からは議論が進んでいますが、教育の分野にかんしてはあまり進んでいないと指摘します。とくに、幼いころから生成AIに触れて育った人への影響などを懸念しているとのことです。

映像の作り方やコンテンツの作成。生成AIに現状など様々な観点から興味深いお話を聞かせていただきました。早岡先生、ありがとうございました。

(もはや定番となった、“C”マークを作っての集合写真)

注・参考文献

  1. 北海道大学リサーチタイムズ「知のフィールド」(2024年7月24日閲覧).
  2. NHK:ダーウィンが来た!(2024年7月24日閲覧).
  3. 北海道大学リサーチタイムズ【動画公開】知のフィールド#8北海道大学 天塩研究林「守り育てる最北の森」(2024年7月24日閲覧).
  4. 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「世界を救うのは、愛と科学だ。これからヒーロー!」(2024年8月2日閲覧).
  5. Studio Film Bilder : Nuggets(2014年).