実践+発信

モジュール2-5「空想科学コミュニケーション古びた未来を破壊せよ」(8/3)宮本道人先生講義レポート

2024.8.16

石坂 晴奈(2024年度選科B/社会人)

科学技術コミュニケーターとしての表現とコミュニケーションを学ぶモジュール2の最後は、宮本道人先生です。虚構学者/応用小説家/SF思考コンサルタントを名乗られていますが、他に同じ肩書を名乗っている人を私は見たことがありません。はたして宮本先生は何をやっているのでしょうか。
いつも司会者として講義を担当される先生方を紹介されている宮本先生ですが、今回は司会と講師の一人二役から講義が始まりました。これがウケたのかウケなかったのか、現地にいなかった私にはわかりませんが、一応パソコンの前でにこにこはしました。
いわゆるサイエンスに関する講義が多いなか、今回は「空想科学コミュニケーション」を学んでいきます。

(カメラに向かって挨拶する宮本先生。選科の受講生はいつも画面越しに講義を聴講します)
SFプロトタイピングとは?

SFプロトタイピングは「みんなでSFをつくりながら未来の色々な可能性を考えるメソッド」であり、「科学と未来の可能性との間における対話」が目標となります。また、SFは「ありえるかもしれない世界みたいなもの」と定義されていました。

耳なじみがない言葉を理解しようと聞いていましたが、「ありえるかもしれない」は空想と重なる部分があるので理解できるものの、うしろに「みたいなもの」がくっついてまた少しわからなくなります。若干八つ当たり気味に、この定義は何も説明していないではないかとすら思えてきます。
つかみどころのない概念たちですが、とにかくSFプロトタイピングは、ありえそうな未来についていろんな可能性を考えてみることを通して、さまざまな立場の人が対話することが重要だということです。

(SFプロトタイピングについて語る宮本先生)
SFは遠い世界の話なのか?

ところで、みなさんはSFってどのくらい身近に感じますか?
私にとっては少し遠くて、「地方に住んでいるときにテレビで見る東京のグルメ」くらい他人事でした。そういう世界があるんだなーくらい。

それが今回の講義をとおして、そんな意識から「うちの県にも出店しているらしくてちょっと足をのばせば行ける」くらいの意識になりました。なぜなら、幼少期からなじみ深いトトロやこち亀もSFで、私も愛用しているkindleはSFの世界から生まれたものだからです。これを聞いて私は一気に身近になりました。たかが空想、されど空想で、私たちが知らず知らずのうちに触れていて、そして未来に何かをつくりだすこともできるのがSFというわけです。

SFプロトタイピングは突飛なことをやっているように見えますが、現在を生きる人間が科学や社会を題材にしてありえそうな世界を考えるという方法をとることで、未来を想像し、そこに向かう現在を創造できるのだと思います。未来を考えることで今が変わり、そして今と地続きの未来も変わると思うと、突飛でも非現実的でもないように思えてきます。

知らない・見えていない世界を知る

SFは、ただ私たちにわくわくする未来を見せるだけではないようです。未来の科学技術や宇宙といった夢がふくらむSFがある一方で、社会で弱い立場になりうる人たちの味方となるSFもあります。

生きているなかで自分がマジョリティや強い立場にいる場合、その一方で肩身の狭い思いをしている人たちのことをどれだけ想像できているでしょうか。当たり前すぎて気づけない社会の当たり前を、「絶妙にありえないけど本当にあったら…」という世界観でぶっこわして、私たちに考えさせてくれるのもSFです。

ここで疑問に思ったのが、現実で力を持つ一部の強者がつくる未来から実際に脱するには、強者がつくってきた社会における壁を越えたりすり抜けたりしなければならないのではないかということです。バックキャスティングにおける現在と未来の間を、実際にどうつなげばよいのか。つい目を背けてしまうことや関心すらもたないことをSFの力を借りて想像することができたら、その次に私たちは何をすればいいのでしょうか。

(SF思考におけるバックキャスティングとフォアキャスティングのフロー)

また、SFプロトタイピングを実践する中で、気づかないうちに弱い立場の人たちを排除したり無視したりするアイデアが出うるのではないかという懸念も浮かびました。講義では、多様なメンバーで行うことが重要であることが挙げられていましたが、本当に対等に、安全な対話ができるかどうかは、ファシリテーターの役割を担う人の力が試されそうです。

おわりに

SFプロトタイピングの詳しい方法は、一回の講義では到底わかるものではなく、ここでまとめることも難しいので、宮本先生のご著書『古びた未来をどう壊す?』1)をお読みください!としたいと思います。

講義を聞き終えてパッと浮かんだ感想は、なんだか哲学対話に似ているということでした。どちらも考えにくいことを考えやすくしてくれる手段・場であり、普段は話さないことを話せることで人と人をつないでいくという良さがあります。最近では哲学対話を企業内で実践する動きもあり、ビジネスでの活用も多いSFプロトタイピングと通ずるものがありそうです。哲学対話が好きな私は、きっとSFプロトタイピングも好きだと思います。

(モジュール2最後ということもあり、いつもよりはっちゃける受講生等)

注・参考文献

  1. 宮本道人. 2023:『古びた未来をどう壊す? 世界を書き換える「ストーリー」のつくり方とつかい方』光文社.