実践+発信

産学官連携によるイノベーション創出の理論/130 内田純一先生の講義レポート

2013.2.2

1月30日、北海道大学観光学高等研究センターの内田純一先生による講義が行われました。内田先生は観光学がご専門ですが、以前は地域広報などにも携わったご経歴があります。広報といえば科学技術コミュニケーターが活躍する場の1つであり、先生にとってもCoSTEPのカリキュラムはとてもご興味があるとのことでした。

■科学技術のあり方への広い視点をもつ

親戚に福島県在住の被災者がいるにも関わらず、原子力発電への絶対反対を表明できない、と言う内田先生。それは日本を含む世界のエネルギー事情を取り巻く様々な要素を考慮すれば、原子力発電中心のシステムを現時点では容認せざるを得ないという考えに基づくもの。

優れた科学技術コミュニケーターは、イノベーション創出の場での産学官の役割、「ビジネス」、「科学」、「コミュニケーション」の全ての能力にたけていると内田先生はおっしゃいます。講義の本題に入る前に、我々に対しても科学技術のあり方への広い視点を持って欲しいというメッセージがありました。

■イノベーション創出の3ステップ

 イノベーション創出理論については、歴史的に3つのステップを順に追った説明がありました。

第一段階は、1980年代に誕生した「アクターネットワーク理論」。

これは社会構成要素を従来型の"ヒトとモノ"や"社会と技術"のように二分するのではなく、そもそもそれらは不可分であり、文化や社会制度も含めた全てを同等のアクターとしてとらえ(異種混淆)、問題解決には他のアクターの取り込み(翻訳)によってネットワーク化の過程を経るという理論です。

第二段階は、1990年代に誕生した「モード論」。これは知識生産の場所を、既存の学問分野の中におけるもの(モード1)と、分野を横断した社会的文脈の中で行われるもの(モード2)に分け、問題解決の多くは後者の場で行われるという理論です。

第三段階は、2000年代に誕生した「トリプルヘリックス理論」。産学官の三者がらせん状に絡み合い、当初はバラバラだったものが、時おり不足する機能を互いに補うなどの歩み寄りを見せながら、時間をかけてゆっくりと結束したところにイノベーションの創出がある、という理論です。産学官による地域イノベーションの例としてサッポロバレーを挙げての説明がありました。

第一段階では「アクターのネットワーク化」(コンセンサス空間)、第二段階では「知識生産の場所」(知識空間)という意味をもって、第三段階の「イノベーションの創出」(イノベーション空間)へとつながるわけです。

■イノベーション創出のためには

新しい時代の科学技術コミュニケーターは、科学技術と社会の、あるいは文系と理系の仲介役といった能力だけではなく、その中でイノベーション創出といったクリエイティブな領域の能力が問われます。そしてそのような能力への需要は、今後ますます増えていくものと考えられます。そのためには、内田先生が冒頭でおっしゃった"ビジネス"、"科学"、"コミュニケーション"の知識と能力がカギとなることを、改めて良く理解できた講義でした。

(2012年度選科 伊藤友加里)