実践+発信

「参加と対話の科学技術コミュニケーション」518日三上直之先生の講義レポート

2013.5.23

三上直之先生(高等教育推進機構 生涯学習計画研究部門)の講義は、平田オリザさんのお話を振り返ることから始まりました。平田さんが最後に示したタマネギの話。「どこまでが皮でどこまでが実なのか?」正解はありませんが、答えを出さなければならない場面はよくあるのかもしれません。

◆自分の立ち位置を考える

さて、自分たちはいったいどういう立場の人間なのか。三上先生は、教室を見えない座標軸で前後左右に区切りました。横軸は「科学技術コミュニケーションへの近さ」の度合いを、縦軸は、「社会人度」を表します。受講生たちに自分の立場(点)はどこなのか、考えながら移動してもらいました。次に近くの人と話をさせ、自分の立ち位置を修正する時間をつくりましたが、意外と別の場所への移動は少なかったようです。このように、自分の立ち位置というのは、式では表現できないけれど、案外答えをもっているのではないか。そんな認識から本題へ入りました。

◆科学技術コミュニケーションの多様性

まだ新しく、はっきりとした学術体系ができあがっているわけではないこの分野、コミュニケーションの目的や動機とは何なのか。研究の楽しさを伝える、不安や問題点を明らかにする、社会の課題解決に活かす…多様な目的の中で、三上先生がとくに関心をよせているのは「科学技術への市民参加」です。倫理的・社会的な対立や、リスクをめぐる摩擦をはらむ科学技術関連の問題――例えば、原発問題、遺伝子組み換え作物など――こうした問題をトランス・サイエンスといいますが、その問題解決に市民がどう「参加」し、市民と専門家がどう「対話」できるのか、その手法について考えます。

◆トランス・サイエンスへの市民参加

私たちも、トランス・サイエンスの諸問題に触れる機会が増えてきました。従来は「知識がない市民に情報を与えれば、不安や疑問は解消するはずだ」という「欠如モデル」の考えのもと、専門家や企業、行政などの一方的な説明・情報提供に終始していましたが、今後は市民と専門家との「双方向的な対話」を必要とする課題がさらに増えていくといいます。対話をすることで、専門家の側も、自分の関わる科学技術が、社会でどのように理解されているかを知ることができます。

◆ミニ・パブリックスとは

その名の通り、無作為抽出による「社会の縮図」をつくり、問題を討論して政策決定などに活用する手法です。なかでも、北海道で実施された遺伝子組み換え作物を扱ったコンセンサス会議や、BSE問題を扱った討論型世論調査の具体例を示されました。このような取り組みが、北海道、また国レベルでも始められていることは、まだあまり知られていません。

◆科学技術コミュニケーターの役割

「科学技術への市民参加」について、こうした場のコーディネーター、ファシリテーターとしての役割も、科学技術コミュニケーターにはあるとのこと。身の引き締まる思いです。

三上先生、ありがとうございました!

 レポート:三井恭子(2013年度本科・ライター)