実践+発信

69サイエンスカフェ札幌「宇宙のカタチ、銀河のレシピ」開催されました

2013.6.18
2013年5月26日(日)14時から第69回サイエンス・カフェ札幌「宇宙のカタチ、銀河のレシピ」が開催されました。ゲストは北海道大学大学院理学研究院教授の羽部朝男(はべあさお)さんと、同特任助教のエリザベス・タスカーさんです。
羽部さんは宇宙の構造形成、タスカーさんは銀河や恒星の形成を研究しています。お二人のお話を聞きながら、一緒に私たちの宇宙の未来について考えてみることにしました。
まず羽部さんからは、「宇宙のカタチ」とはそもそも何を指すのか、というお話がありました。宇宙は「膨張している」と言われています。傍聴しているからには、宇宙の「外」があり、外と中を隔てる境界の形が、宇宙のカタチなのでしょうか?
この問題を最初に本格的に考えたのがニュートンでした。ニュートンは、まだ天動説が主流だった頃、太陽は夜空に数多ある星々の一つの平凡な星に過ぎず、それが宇宙の中心にあるというのは不自然だ、という、すばらしい洞察を持っていました。そこから、宇宙に働く重力と、宇宙の観測結果を矛盾無く説明するには、宇宙は果てしなく広がっていると考えるしかない、つまり、宇宙には境界は存在しないという結論を導き出しました。
それに対してアインシュタインは、「果てしなく広がっている宇宙」は実はニュートンの作り上げた重力理論では説明できないことを明らかにし、「一般相対性理論」と呼ばれる、現代の宇宙物理学の基礎となる理論を作りました。
ところが一方で、アインシュタインは宇宙が膨張している、という考えをどうしても受け入れることができず、方程式に不自然な「宇宙項」を入れてみるなどの苦肉の策を重ねていました。
この問題の解決に向けて最初の大きな手がかりを提供したのがハッブルです。ハッブルは、遠方の銀河を観測することによって、遠くの銀河ほど速い速度で遠ざかっていることを明らかにし、「膨張説」の強力な根拠を示しました。
こうして現代では「膨張説」が主流となっているわけですが、宇宙がこれから先、「どのように」膨張していくののか、は未だに議論の対象となっています。これは逆に、宇宙の「過去」を調べることによって、手がかりを得ることができます。
宇宙の過去を調べていくと、我々が何らかの意味で直接「観測」することのできる物質の割合はごく僅かで、じつは「ダークマター」「ダークエネルギー」と呼ばれる「見えない存在」が、宇宙の質量の大部分を占めていることが明らかになってきました。このダークマターは、銀河や星ができるために必要な「重力」の大部分を提供しています。つまり、ダークマターが無ければ、銀河や星、我々の住む太陽系や地球も存在しなかったのです。
ダークマターを直接研究し、かつ、宇宙の過去や未来について調べることは容易ではありませんが、近年ではコンピューターを使ったシミュレーション研究が盛んに行われています。
羽部さんからは、銀河の創生期の大変興味深いシミュレーション動画を見せて頂きました。
カフェ後半は、話題提供者が羽部さんからエリザベスさんにバトンタッチされました。
エリザベスさんからは、「銀河のレシピ」と題して、コンピューターシミュレーションによる銀河や恒星の生成を研究することにどのような意義があるのか、実際にどのように研究を進めているのか、ということを、楽しいイラストやわかりやすいシミュレーション動画、「ケーキ作り」になぞらえた印象的なストーリーをもとに解説して頂きました。
エリザベスさんは科学技術コミュニケーションやアウトリーチ活動にも大変興味があり、札幌の高校生相手に英語でのレクチャーを行ったこともあるそうです。そういったご経験も活かしながら、魅力的なジェスチャーと表情を交えた大変分かりやすい英語でお話頂きましたが、それでも英語はちょっと・・・という来場者のみなさんのために、サイエンスカフェ札幌では史上初の「字幕」を用意しました。
事前にエリザベスさんにトークのリハーサルをお願いして一部始終をビデオで撮影し、その記録内容を元に「おそらくこのスライドではこのようなことをお話になるだろう」ということを推測しながら、スタッフが日本語字幕をあらかじめ作成し、それを、元の英語スライドの切り替えにタイミングを合わせて提示したのです。
そもそも、外国人のゲストを迎え、外国語でトークをして頂いたこと自体、サイエンス・カフェ札幌では初めての試みでした。北海道大学には外国人の研究者や留学生もたくさん在籍しているので、今後も、機会と要望があれば英語でのサイエンスカフェを開催してみたいと思います。
会場からはたくさんの質問が出され、みなさんの宇宙に対する関心の高さ、知識の豊富さを改めて実感しました。
時間の関係上一部の質問にしか答えることができなかったり、二人の話題提供者を迎えての日英二カ国語での進行をなかなかスムーズに行えなかったり、会場に差し込む日差しが強すぎて、スクリーンが非常に見えづらかったりと、反省点もいくつかありましたが、それらを踏まえて、今後もよりよいサイエンスカフェを作っていきたいと思います。
何よりも、羽部さん、エリザベスさんが楽しんで頂けた様子だったのが、運営者冥利に尽きました。ご協力頂いたみなさん、参加者のみなさん、ありがとうございました。