実践+発信

「サイエンスライティング基本」615 古田ゆかり先生の講義レポート

2013.6.27

 科学の話題を中心にあつかうフリーのライター/編集者として、10年以上活躍されている古田ゆかり先生。今回の講義では、そんな古田先生にサイエンスライティングの基礎を伝授していただきました。

・印刷物ができるまで
印刷物の制作には多くの人々が関わります。まず企画を考えて全体を仕切る編集者、そして文章を書くライター。印刷物にのせるための写真や図の制作には、カメラマンやイラストレーターも必要です。印刷物の意図を効果的に読者へ伝えるために、全体のデザインを考えるデザイナー、印刷物を印刷できる形にするオペレーターが加わります。そして印刷物を印刷するには、印刷所に頼まなければなりません。このように多くの人の分業によって印刷物はなりたっています。
・自分の思いを投入しよう

科学の記事においてはわかりやすく、事実を正確に伝えることは確かに大事です。しかしそれだけでよいでしょうか、と古田先生は問います。正確な事実は、論文を読めば手に入ります。科学記事の役割は、文章を読むことで科学を体験してもらうことなのです。そのためには書き手は読者に寄りそって、自らの問題意識によって読者の体験を設計する必要があります。企画は書き手の問題意識から生まれるのです。
・正確さとの葛藤
科学者の世界にはたくさんの専門用語があります。専門用語は科学者同士のコミュニケーションにとっては不可欠なものです。しかし専門外の人へ伝える科学記事において、専門用語はしばしば理解の壁になります。そのため専門用語をどのタイミングで、どの程度使うかは科学記事にとって重要なポイントです。加えて、もともとの正確な表現をより親しみやすく言いかえることが必要になる場合もあるでしょう。
その過程で、専門家には不正確に思える記述になってしまうこともあります。科学記事において、正確さとわかりやすさのバランスをとることは、科学技術コミュニケーターの専門分野です。そのため科学記事の制作においては、記事の内容について科学技術コミュニケーターと専門家とが深く議論することが求められるのです。
(中島悠貴 2013年度本科・北海道大学理学院 修士1年)