北海道大学地球環境科学研究院 准教授の根岸淳二郎先生に、「より良い河川管理への実践」と題してお話頂きました。
冒頭でEmersonの言葉、”An ounce of action is worth a ton of theory”を引用し、これが根岸さんのモットーだと語ります。この意味は、「何万の理論よりも行動することが大切。」
研究者であると同時に、研究室を飛び出し、地域での環境教育にも力を注いでいる根岸先生。
立場の違う自治体、地元住民とどのように接しているのか、実例を交えての講義が進みます。
【背景】
河川管理とは、快適で安全な状態に保つためのあらゆる努力をすること。管理者の国や自治体は、「川を心地よく使え利用な状態にする」という目的で、治水や利水を行っています。 根岸先生のご専門は、生物多様性。河川はぜい弱なシステムであり、世界的に見ても人口増加に伴い、種の多様性が失われていると危惧しています。
河川管理者と研究者である根岸先生の考え方には違いがあります。例えば、国が行う洪水防止の為のダム建設では、「水が動く」ということがありません。一方、水が動くことは生物にとって非常に重要で、産卵のタイミングはこの「水の動き」で決まります。さらに、その川の恩恵を直接受ける市民にとっては、環境も大事だけれど、洪水も防止してほしい、という考え方があります。
【研究者の立場・役割】
河川の管理は、管理者と住民との話し合いで進みます。実際の管理に、現状では「遠い」と先生は考えています。研究成果を直接住民に伝えないと、河川の管理には繋がらない、と特に次の3点を今後すべきこととして挙げます。
2.環境劣化の要因を知ること:原因を知ないと修復できないため。
3.残存する極めて重要な自然のプロセスを見つける:全ての環境を守ることは不可能なので、最低限守るべき環境を見つけ、効率的な保全への優先順位をつけることが必要です。
【情報を可視化する】
研究者にできることは、「情報の可視化。」 生物の中には、美味しくない、気持ち悪い、いなくなってもいい、と思われるものもいますが、そういった生物への見方を変えるのも研究者の役割だと言います。情報が無いと、必要性も分かりません。そのために、根岸先生は、さまざまな実践活動を行っています。
【実践】
活動のきっかけは、自然に対する考え方を変えたいとの想いから。対象は、子ども。理由は、大人は少し頭が固くなっているので、まず子どもの意識を変えると、間接的に大人も変わるという考えからです。
氾濫する環境を学ぶプログラムでは、?下流の特徴を学び、?ワンド(池の様になっている地形)の環境を知るために川に入り?その川に生息する二枚貝への影響を学習します。参加した子供たちへの事前事後のアンケートで、理解が深まったことが分かったと言います。
現在は、学生達と共に、「川の学校」や「山の学校」というプロジェクトを行い、山や川に生息する生物について学ぶ場を作っています。
最後に根岸先生がこれまでの経験から、ステークホルダーとのコミュニケーションの場に置いてモットーとしていることを教えてくださいました。
・多くを期待しない。
・いやいややるとうまくいかない。
・相手のことをまず聞いて、そのあと自分の主張をする
これは、人とコミュニケーションするうえで欠かせないポイントだと感じました。
根岸先生ありがとうございました。