2013年12月1日(日)、街はクリスマスムードに沸き、ときおり雪がちらつく中、第72回サイエンス・カフェ札幌「ようこそ「腸」宇宙へ 〜腸内細菌のかぎりない可能性〜」が14時から開催されました。ゲストは北海道大学 大学院農学研究院 准教授の園山慶(そのやま けい)さんです。
園山さんは、消化管生理学の研究をしています。腸内細菌が、私たちの体の中でどのような働きをしていて、健康にどう役立てていけるか、最新の研究も交えてお話ししていただきました。
開場まもなくから、イスに座って開演を待つ人たちも多く、健康や体に対しての関心の高さがうかがえます。
今回はクリッカーを使い、クイズ形式で参加するスタイルですすめました。サイエンス・カフェ札幌では2度目、およそ1年ぶりの試みです。参加者は初めて見るクリッカーに戸惑いながらも、すぐに使い方を理解。自分の押した回答が、ほかのみなさんと比べどうなのか、興味津津のようすです。
お母さんからもらう腸内細菌
まずは腸内細菌が体の中にどのくらいいて、どのような働きをしているかのお話。私たちの腸の中には、なんと1000兆個もの腸内細菌が住んでいるそうです。そんなにもたくさんの細菌は、胎児のころには全くいなくて、産道を通って生まれてくるときに、お母さんの腸内細菌を口から受け取るというから驚きです。
さらには、腸内細菌のタイプはいくつかの種類に分かれるそうですから、お母さんのタイプの腸内細菌を受け取ることになります。赤ちゃんはお母さんからいろいろなものを受け取ってこの世に生まれてくるのですね。
「ビフィズス菌」が体にいいというのは、よく聞くことですが、赤ちゃんの腸には、とくにビフィズス菌が多く含まれています。それは、お母さんのおっぱいにたくさん含まれる「オリゴ糖」がビフィズス菌の「エサ」になっているから。実はヒトは直接オリゴ糖を消化することはできません。しかし、ビフィズス菌が腸の中で、ヒトの代わりに消化をしてくれるのです。そして、この大切なオリゴ糖は、ウシの乳には含まれていないといいます。そこで粉ミルクのメーカーは、「オリゴ糖」を配合して、母乳に近づけるよう努力をしています。実際、オリゴ糖を配合したミルクでは、赤ちゃんの腸内でビフィズス菌が増えています。
では、ビフィズス菌はじめ腸内細菌は、私たちの体の中で、どんなことをしてくれているのでしょうか。
オリゴ糖のように、直接消化できない食物を、私たちの代わりに消化してくれ、エネルギーを供給してくれる、という働きがまずあるそうです。その恩恵を最も受けているのは草食動物。草食動物は実は「草」を自分で消化できるのではなく、腸内細菌たちが消化してくれるのです。草食動物の巨大な大腸や反すう胃は、腸内細菌のタンクとして、主の代わりに消化を助けてくれています。
腸内細菌には、このほか、ビタミンKやビタミンB群の供給や、腸粘膜にびっしりとついて他の病原菌の侵入を防ぐバリアの役割もあるといいます。腸内細菌がいなくては、私たちは生きていけないのですね。
腸内細菌がアトピーを防ぐ
腸内細菌は免疫機能の発達にも役立っていることがわかってきました。赤ちゃんの腸内細菌、ことにビフィズス菌の存在が、アトピーを予防しているというデータが得られています。しかも、大切なのは、生まれてすぐから離乳期まで。お母さんが妊娠中から自分の腸内のビフィズス菌を増やすことで子どものアトピーが抑えられるという実験結果が得られています。園山さんの研究室では、お母さんがオリゴ糖を摂ることでも同じ効果が得られることを確認しました。お母さんと赤ちゃんの関係というのは、実に絶妙で神秘的なものなのですね。
メタボを改善する「やせ型腸内細菌」
後半は、腸内細菌とメタボの関係。最新の研究で、肥満を抑えられる腸内細菌の存在もわかってきました。ファシリテーターの目が輝きます。
腸内細菌には、やせ型と肥満型があることがわかってきました。マウスを使った最新の研究で、やせ型腸内細菌をもったやせマウスと、肥満型腸内細菌をもった肥満マウスを同居させると、肥満マウスの腸内細菌が「やせ型」に変化し、肥満が抑えられたという結果が得られています。これは、やせ型の腸内細菌が、糞によって肥満マウスにうつったからです。ヒトの場合でも、「やせ型」の腸内細菌を肥満した人に移植することでメタボ(糖尿病のリスク)が抑えられました。
このように健康的な腸内細菌を増やすことで、体質を改善したり、病気を予防できるということが、次々とわかってきました。今後、もっとさまざまな疾病の予防や治療に役立っていきそうです。私たちも、おなかの住人を、「よい集団」に保つべく、努力していく必要がありそうです。ビフィズス菌は、腸に届くものを食べても、1,2日でお尻から出て行ってしまいます。また、ビフィズス菌も、「やせ型腸内細菌」も、高脂肪の食事には弱いということもわかってきました。
私たちは「超生命体」
最後に園山さんは、腸内細菌の数が1000兆個なのに対して私たちの体をつくる細胞の数は60兆個であることに触れました。いったいどちらが主でどちらが従なのか、確かにわからなくなってきます。しかし私たちの体は、どちらが欠けても存在しえない、「超生命体」であると結ばれました。
私たちの生命は、多くのものが関わり合い、絶妙に作用しあって成り立っていることがよくわかりました。小さな同居人たちをちょっと意識して、互いにいい環境をつくりあえるといいですね。
寒いなか参加してくださった皆様、一般の人にわかりやすいよう、何度も快くスライドを作り直し、楽しんで協力してくださった園山さん、進行を助けてくださったスタッフのみなさま、ありがとうございました。
会場から、たくさんのご質問をいただきました。時間中にお答えできなかったものに、園山先生がこのサイトで答えてくださっていますのでぜひご覧ください。
(三井恭子 2013年度本科/ライター)
※ 質問カードへの回答はこちらから → http://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/754/
(2013年度本科「対話の場の創造実習」企画メンバー:久保田真実、長崎俊紀、桜井寿人、三井恭子)