ダウン症など3つの染色体異常を調べる新しい出生前診断や不妊治療について考えるサイエンス・カフェ札幌が,12月21日(土)に開かれました。ゲストは生殖補助医療や生命倫理に詳しい石井哲也さん(北海道大学安全衛生本部特任准教授)です。
当初,新聞やニュースでは新型出生前診断の精度は99%以上と大きく報道されました。100%ではないので完璧とはいえませんが,かなり正確に診断ができるような印象があります。しかし,精度(陽性的中率)は妊婦の年齢によって変わる事実が実際の計算によって解説され,数字の持つ意味について正しい理解を深めました。
ダウン症は出生前診断が語られるときに必ず取り上げられる病気です。そのため「出生前診断=ダウン症の検査」と理解している妊婦さんも多いのですが,実際は染色体の数を確認するだけで,他の先天性異常と比べて検査が簡単にできるという理由が,その誤った認識の背景にあるそうです。
赤ちゃんの健康を願うことは普通の感情です。採血だけの簡単な検査によって染色体異常の可能性が低いと分ければ安心するかもしれませんが,陽性の結果がでた時は,赤ちゃんの生死を左右する決断に迫られるかもしれないことをしっかり理解する必要があると石井さんは指摘しました。また,ダウン症の人でも不自由なく暮らせる社会を目指す欧米の取り組みなども紹介されました。
新型出生前診断については各種世論調査の結果が発表されています。それらと同じ内容の質問をカフェ終了時に実施しました。ある程度の専門的な情報が提供された後で,参加者の意識にどのような変化が生まれたか検証してみようという試みです。その結果の一部を公表します。また,会場からの意見や感想もあわせて紹介します。
【会場からのコメント】
- 出生前診断は妊婦の精神的ケアの対策などが不十分な状態で始まったという印象なのですが,遺伝カウンセラーを養成するといったような妊婦をフォローする体制が大切だと思います。また医学で行われる検査のはじまりは,このように倫理的問題が未解決であいまいなままであっていいのでしょうか。(高校2年女性)
- 様々な立場の人たちによる議論が必要だと思います。
- 30代後半の娘夫婦にまだ子が授かりません。親としてかけるべき言葉が見つかりません。
- 障害のある人も地域社会の中で普通にくらしていけることを実現するのは我々の役目でしょう。(65歳男性)
- 現に障害をもっている子を育てている親たちに対して,この検査はどんな意味を持つのでしょうか。
- 優生保護法などについての話はどうしても冷静に議論できません。(当然といえば当然ですが) これは生命科学と社会科学(政治的な意味合いも含めて)のいずれの角度も必要でしょう。その中にあって、ダウン症に関するお話は、新鮮でありショックでもありました。(盲学校教師女性)
- 便利な世の中もいいが,お金持ちだけが受けられる検査とか,差別を温存したままの社会の中で,科学技術がひとり歩きするのは望ましくないと思います。
- 大学で看護学を専攻しています。医療に関する様々な事象を学んでいくなかで,倫理問題や命について考えさせられる機会が増えました。このような問題には正解がなく,難しいものだと思いますが,社会全体で議論する必要があると思います。命に関わることはすべての人に関係することです。一人ひとりがしっかり考えなくてはならないと感じました。できれば大学でもっと生命倫理に関する授業を行ってほしいです。
- 最近新聞でよく取り上げられている「出生前診断」には様々な種類があることを知って驚きました。さらに新型といわれている診断は99%の精度と聞かされていましたが,その確率の求め方にも問題があることも知りました。診断による誤りによって中絶したり,出産後に苦しむことがあってはならないと思います。多くの市民がしっかり理解し,検査を受けるか受けないか決められるような社会であってほしいです。日本中に情報を広めて下さい。
- 生命に科学が介入することに賛成です。子供にとって,死ぬより生きる方が幸せだとどうして言えるのでしょう。自殺する人もたくさんいます。幸せな人生を送っている人の,薄っぺらい倫理観で中絶は悪だと言わないでほしい。
- 子供は母体からしか生まれてこないので,女性に大きな責任がのしかかる。女性は身体の一部として子供を認識しているわけだから,計り知れない愛情と責任をもっている。
- 染色体異常の他にもたくさんの先天異常があるということを知る必要がある。
- 本来ならば生まれるはずのなかった命がうまれることは,まさしく光(希望)と影(異常・経済)です。どうすればいいのでしょう。他者のことを思いやれることが,きれい事かもしれませんが大切だと思います。
- この検査技術を扱ってきた研究者たちは,はたして「生まれる前に利用してよいか」考えたことはあったのか。技術開発以上に重要な社会的責任だと思います。
- 子供は作るものなのでしょうか。授かるものだと思います。
- NIPT検査では,偽陰性を最小にするように調整されていると感じます。それが,中絶,命を絶つことをより進めてしまうのではないでしょうか。
- iPS細胞による不妊治療は,より高齢出産を可能にさせるのだと思います。
- 日本で臨床研究としてはじまったばかりの新型出生前診断に,中国企業が参入すると「倫理」「臨床研究」の目的が崩れるのではないかと思います。
- ダウン症のトリソミーについて,遺伝子を不活性化することで病状が改善されると紹介がありましたが,このこと事態がダウン症に抱くイメージを象徴しているように思います。私はダウン症がどういう病気なのかよく理解できていませんが,健常者に近づけようとするならば,健常者が良いという世の中を増長していくことになるのではないでしょうか。
- アベノミクスに象徴されるように,経済合理主義と出生前診断や不妊治療が一体化されているという指摘に共感しました。「効率」優先主義でよいのでしょうか。今後もこのような企画を続けていくことに期待しています。
- 医者が,患者(女性)の立場に立てるような教育を受ける必要があると思いました。
- 生殖医療に関わらず,各々が人生観や生命観,哲学について,日頃から考える必要があると思いました。
- 生命倫理の問題は一般論に帰納しないし,多数決での判断には意味がないと思います。
- 今後,自分が親になるかもしれませんが,様々な選択肢があるなかで,自分なら何を選択するかわかりません。一つの選択をしたことでまた新たな選択が生まれます。科学技術は恩恵をもたらしましたが,私たちに苦しい悩みを置き去りにしました。
- 発生について,遺伝子や染色体について,先天性の障害について,妊娠(を希望して)はじめて知るのではなくて,中学生までの間に全ての人が学べるような教育を行ってほしいと思いました。
- 出生前診断によって選択することができる情報を得られるということは良いことだと思います。
- 国が総合的に支援をして,地域の人たちが助け合える社会を望みます。どんな命も大切です。
- 科学技術は止められません。生命をコントロールしたいのは人間の本能なのでしょうか。
- 選択的中絶はあくまでも親の都合で行われています。生まれてくる子供の視点がないのは問題です。
- 出生前診断をしっかり理解した上で受診する自由と,受けずに自然に出産する自由を保障してほしいです。
- 今の日本は障害があっても生きやすい社会ではありません。そこに問題があると思います。
- 仕事を続けたいと思えば,なかなか結婚,出産にふみだせません。そもそも出会いもありません。
- 検査技術の進歩をどこまで認めるか,大きなテーマだと思いました。
- 選択的中絶の決断についての議論では涙がでてきました。
- 偏見と差別が社会にある限り,親としての苦悩は続きます。日本人は,自己決定権を尊重すべきです。
- いろいろな思い,考えが混ざり答えが出てきません。じっくり考えたいです。看護師を目指しています。
- ダウン症,「障害者」への差別を温存し,社会的,経済的支援のとりくみもないがしろにされたまま,このような検査が横行するのは許されることではない。ナチスドイツの優性思想が思い出される。社会には,やはり障害を持つ人は存在し続けると思われるから(たとえ検査があっても),そういう人も含む,どんな人も共存できる差別のない世の中を人間は志向すべきである。
- iPS細胞,再生技術とそれが人間の生命持続に超すぐれたもののように取りざたされているが,人間としてどうなのか,倫理面をしっかり話し合い,早まらず進めてもらいたい。このような技術を人間社会に導入した時,便利さも良いが,どんな問題点が予測されるのか,くれぐれも検討し,それをほとんどの人々が知った上で判断すべき。
- 中絶を医師にゆだねるということに対して,女性に対して責任を持ってほしいと言われましたが,責任を押し付けられるためにそうしているのだから,それは,眞逆のアドバイスだと思う。
- 男なので100%子どもを産む女性の気持ちとしては考えられませんが,男も考えておく必要があるテーマだと思いました。
- 障がいがあっても幸せに生きる人もいれば,健常でも幸せに生きられない人もいる。子どもを産むこと,育てること自体をもっと社会全体で考えられるようになってほしい。
- (見かけ上)健常に産まれた人は,本当に奇跡的に生まれる事が出来たのだ,ということを小さい頃からよく自覚させる必要があると思います。
- ダウン症でも産んで育てていい社会,選択できる,そして認めてくれる世の中になってほしいと願います。
- 社会に出る前にこのカフェの話が聞けて本当に良かったです。(大学院生・20代男性)