住民などステークホルダーの方々の意見を、まちづくりに生かすための工夫とその事例についてお話しいただきました。
まちづくりを行うときには、さまざまな事情や考えを持った人々に影響を及ぼします。それぞれに主張があり、それらがぶつかって対立を生む事例も少なくありません。しかし、主張を応酬するだけでは、多くの人が納得できる結論を導き出すことは非常に困難です。そんなとき、多様な意見にどのように耳を傾け、合意形成を行っていくのでしょうか。
これまで、「藤野むくどり公園」「石山緑地」「モエレ沼公園」などさまざまな事業に関わってきた経験を踏まえ、事業に関わる多くの人との間で実践してきたコミュニケーションについて紹介していただきました。
まずは、多くの人たちの意思や気持ちを聞きます。そして、意見や主張にはどんなものがあるのか、その傾向は何なのかを分析するのです。話し合いが進んでくると、単に「賛成」「反対」といった単純なことではなく、それぞれの事情にあった微妙な思いも見えるようになってくるのです。そうして理解が進むと「この部分なら受け入れられるかもしれない」「たがいにもっといい方法を探そう」と、参加者が前向きで積極的な気持ちで向き合うことができるようになるといいます。
これは、一方的に計画を提出し、それについて立場を表明するというやり方ではできないこと。このようなプロセスを踏めば、多くの人が事業の結果を肯定的にとらえられるようになるのです。
ひとりひとりの微妙な想いを伝え合うために、コミュニケーションの方法にも工夫を凝らします。
たとえば、模造紙に、賛成と反対の軸を作ります。参加者は、どのくらい賛成・反対の気持ちが強いか、軸のうえにシールを貼っていくのです。シールを貼ったことで、「なぜこの場所に貼ったのですか」と話を聞いていくと、互いに想像もしていなかった意見が出たり、「それなら私も共感できる」など、だんだんと柔軟な姿勢に代わり互いの理解も進むのです。同じ「反対」でもいろいろな気持ちがあること、反対の中にも部分的に賛成している場合があること、それをすくい上げて具体化する方法を考えることなど、さまざまな展開が生まれます。単に意見を述べ合うだけではなく、このような可視化と共有の工夫から、みんなで納得できる結論を導く方法は、科学技術コミュニケーションにも大いに役立てたいものです。
(本科・ライティング編集実習生)