実践+発信

生き物をめぐるつの「なぜ」

2010.7.1

著者:長谷川眞理子 著

出版社:20021100

刊行年月:2002年11月

定価:740円


 もう10年以上前になるが、私は京都御苑の自然観察会に参加していたことがある。野鳥や植物、きのこなどについての話を聞いて実際に観察するのだが、街中でよく見かけるハト、カラス、ツバメ、スズメなどの他にも多くの種類の鳥を目にすることができ、その生態の話は動物行動学に興味を持つきっかけとなった。  ある時、アオバズクのヒナたちが樹上に並んでとまっていて、ヒナたちを見守るように親鳥がいるのを、私はどきどきしながら静かに見上げていた。彼らは渡りをするのだが、先に親が旅立ち、日をおいてヒナが渡っていくらしい。生まれてはじめての渡りをヒナたちは何を頼りにするのだろうか。親たち仲間とは会えるのだろうかと心配し、渡り鳥の生態を不思議に思っていた。

 

 

 本書の著者は、動物行動学の研究者である長谷川眞理子氏で、口絵の写真を見ると、青い光を放つホタルイカは妖しげで、赤と青の配色で毒々しく見えるイチゴヤドクガエルの雄は、なんと!おたまじゃくしを背負っている。取り上げられている題材は、「雄と雌」、「鳥のさえずり」、「鳥の渡り」、「光る動物」、「親による子の世話」、「角と牙」、「人間の道徳性」であり、生き物について4つの「なぜ」についての視点から書かれている。

 

 

 書名の4つの「なぜ」とは、動物行動学の祖の一人であるニコ・ティンバーゲンが言った「ティンバーゲンの4つのなぜ」のことで、動物の行動を本当に理解するためには4つの「なぜ」のすべてを解明しなくてはならないというものだ。その4つとは、?その行動を引き起こす直接の要因は何か、?その行動はどんな機能があるから進化したのか、?その行動は一生の間にどのような発達をたどって完成されるのか、?その行動は進化の過程でどのような道筋をたどって出現してきたのか、という疑問である。

 

 

 私が不思議に思っていた「鳥の渡り」についても、「4つのなぜ」の観点から、解説が試みられている。渡りの直接の要因については、鳥たちは遺伝的に備わった体内時計に基づいて渡りの時期を決め、生まれながらに持っている、星座や太陽や地磁気を利用したコンパスで一定期間飛行を続けると目的地につけるらしい。しかも渡りに必要なエネルギーは、脂肪というお弁当を持っているからなのだ。渡ることの機能については、仮説ではあるが繁殖期と非繁殖期の双方でもっとも豊富に食べ物が手に入る場所を選んでいるという。また、渡りの行動は経験を積むと、飛んでいく途中の景観を覚え、遺伝的なプログラムを修正することもできるそうだ。しかし、渡るという行動の進化については、まだはっきりと分かっていないらしい。

 

 

 このように、まだまだ研究途中でよく分かっていないこともあり、題材のすべてについて「4つのなぜ」が明らかにされているわけではないが、なぜだろうという疑問の数々を複眼的に見ようというのは大変面白い。なるほど私の疑問も解決した。あのアオバズクのヒナたちは生まれながらに飛んでいく方向が分かっていたのだ。無事に仲間と再会し、食事にありつけたのだろうな。

 

 

 「なぜ」とか「不思議だな」と思ったことの答えがすぐには明らかにはならないかもしれない。しかし、科学技術が進歩し、研究が進み、あるとき解明されることもあるのだ。いや逆に、生物研究や科学技術の研究は、そんな「なぜ」と思うことを大切にすることで進んでいくともいえる。そんな目であなたも生き物を見つめてみませんか。

 

 

大藤升美(2009年度CoSTEP選科生、京都市)