実践+発信

伝承農法を活かす 家庭菜園の科学

2010.6.29

著者:木嶋利男 著

出版社:20090200

刊行年月:2009年2月

定価:987円


 ビールのおつまみにも欠かせないエダマメ。エダマメの成熟したものが、栄養豊富で畑のお肉と言われるダイズです。これを栽培するには、畑に十分な養分が必要だと思いませんか。でも、ダイズは肥料を多く与えると、葉ばかり茂って実がなりません。

 

 

  このことは古くから経験的に知られていましたが、その理由を科学的に理解するとこうなります。植物は条件が良いと茎や葉を伸ばして成長を続けますが、なかなか実を付けません。ところが条件が悪くなると、子孫を残そうとして実を結びタネをつくるのです。

 

 

 植物のこうした生存戦略を知ると、エダマメのように実を食べるのか、ホウレンソウのように葉をたべるのかなど人の都合に合わせて成長のさせ方をコントロールすることができます。

 

 

 本書でいう「家庭菜園の科学」とは、このように、自然界の基本原理を理解して家庭菜園に活かすことです。「伝承農法を活かす」とは、化学肥料や農薬が存在しなかった時代に行われていた農法、古い時代から受け継がれてきた知恵を家庭菜園に利用することです。

 

 

 じつは私も家庭菜園を手がける一人です。「収穫した野菜のタネを翌年蒔いてもダメですよ。タネは毎年買いましょう」と仲間は言いますが、本書の著者は「問題ありません」と言います。そして、そのわけを、メンデルの法則に触れながらこう説明しています。

 

 

 いま市販されているタネのほとんどは、現代の農業に適するよう品種改良したものです。品質が安定し、収穫量も多いなど、優れた形質だけが現れるよう交配したもので、第一世代と呼ばれます。ところが、この形質は一代限りのもので、そこから採ったタネは、形や色、収穫時期などの性質がバラバラになってしまいます。

 

 

 でも、家庭菜園では、このことはさほど重要ではありません。むしろ、成長の速さに差ができて少しずつ収穫できるなど、異なった性質が現れるほうがいい場合もあります。だから家庭菜園では、収穫した野菜のタネを翌年に蒔くことがあってもよいというのです。 この本は、家庭菜園をやったことのある人には「なるほど!」の連続でしょう。

 

 

 いま、現代農業は次のような問題を抱えています。農家がみな第一世代の品種を使うようになった結果、作物の多様性が失われ、気候変動や病害虫被害に弱くなったと言われています。状況によっては収穫が一斉にダメになってしまう恐れがあります。そこで地域の農業センターなどでは、様々な環境下でも適応力のある、伝統的な品種の作付けも推奨するようになっています。  本書は、このように現代農業のあり方についても新しい見方を与えてくれそうです。

 

 

 最近はベランダ菜園、キッチン菜園という言葉も耳にするようになり、家庭菜園はいっそう身近なものとなっています。マイ野菜を栽培している人、やってみたい人にはもちろん、食卓に上る野菜に興味がある人にもおすすめしたい一冊です。土壌中の微生物や病害虫についても詳しく記されています。内容が盛りだくさんなので、興味のある部分をたどって読むのもいいでしょう。

 

 

柳田美智子(2009年度CoSTEP選科生,奈良県)