実践+発信

健康老化寿命 人といのちの文化誌

2010.6.29

著者:黒木登志夫 著

出版社:20070500

刊行年月:2007年5月

定価:924円


 鎌倉由比ガ浜の14世紀の遺跡から発掘された人骨を分析すると,当時の平均寿命は24歳だったという。現代に生きる我々の平均寿命はゆうにその3 倍を超えている。洋の東西を問わず,また時代を超えて人々の長寿への関心は高いが,我々は十分に願いを達成しているといえよう。しかし,皮肉なことに,長生きで,そして豊かな社会になったために,我々はがんを始め,さまざまな健康問題に直面しなければならなくなってしまった。

 

 

 この本は,そんな長寿で豊かな社会ゆえに,我々がつきあわなければならなくなった病気である糖尿病,循環器疾患,がんなどに焦点をあて,病気の発生メカニズムやその文化誌などについて詳しく述べている。

 

 

 たとえば糖尿病の章を見てみよう。

 

 かつて糖尿病はごく一部の富裕階級の病気であった。平安時代,栄華を極めた藤原道長は糖尿病による合併症で亡くなったという。ところが,豊かさを享受する今日では,多くの人々が糖尿病で苦しむこととなってしまった。02年に厚生労働省が実施した糖尿病実態調査では,20歳以上の国民の5人に1人が糖尿病の疑いがあるか,またはその予備軍だという。

 

 

 糖尿病は血液中の糖の代謝が異常になる病気だ。血糖値はインスリンなどのホルモンによってコントロールされている。インスリンは,肝臓からブドウ糖の放出を抑え,同時に筋肉と脂肪組織へのブドウ糖の取り込みを促進させ,血糖値を下げる。しかし,過剰にカロリーをとり続け運動しないでいると,インスリンの働きが弱まって血糖値があがり,糖尿病になってしまう。糖尿病は豊かな食生活と運動をしない生活習慣がその原因というわけである。  それにしても,正常血糖値である100mg/dlは,約6リットルの血液中にわずか6グラムの糖が溶けている状態だという。それが,18グラムだと糖尿病で,3グラムだと低血糖でこん睡状態になるそうだ。血糖のコントロールの精緻さは驚くばかりだ。

 

 

 病気と社会との関係,映画の中での病気の話題なども豊富だ。元巨人軍の新浦投手が,現役時代に糖尿病を患っていたが,それを隠しインスリンを注射しながら選手生活をしていたかと思えば,99年のミス・アメリカが糖尿病であると宣言し糖尿病に対する正しい知識の普及に努めたことなど,日本とアメリカの病気に対する対応の違いついても考えさせられる。また,映画ゴッドファーザーで,マフィアのボスことアル・パチーノが,糖尿病性昏睡に陥るシーンで呼吸の乱れ,精神の錯乱,意識レベルの低下を医学的に見ても見事に演じていたことなど,さまざまエピソードが糖尿病に関する理解を助けてくれる。

 

 

 現代の病気の多くは豊かな社会を生きることとなった我々の生活習慣に関連している。生活習慣病は誰のせいでもない,自らの生活習慣を変えることが必要なのだ。きちんと生活習慣病に対処するためには,生命と病気への基本的な理解が不可欠だ。健康に関心がある人にお勧めの一冊だ。

 

 

臼井宗一(2007年度CoSTEP選科生,岐阜県)