著者:本川達雄 著
出版社:20060100
刊行年月:2006年1月
定価:1680円
ネズミの平均寿命はおよそ1年、ゾウは約70年である。普通の感覚では、ネズミの一生はゾウと比べて短いと思う程度だ。しかし、どちらも一生のうちに心臓が約15億回拍動して寿命を迎えるということを知ると、その感覚も大きく変わる。ネズミとゾウは生きるペースが違うのだ、と。
動物ごとに生きるペースが違うのだから、感じている時間も違うと著者はいう。これを体重や体のサイズと関連づけたのがサイズの生物学だ。著者は前著『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』(中央公論社、1992年)でこの考えを一般に紹介した。本著『長生きが地球を滅ぼす』では、この考えを更に進めて、時間とエネルギー消費量の関係性について論じている。
著者は、寿命を例に挙げる。サイズの生物学によれば、哺乳類の寿命は体重のほぼ1/4乗に比例する。ところが例外の生き物もいる。ヒトだ。人の体重はだいたい60キログラム、先の関係を使ってヒトの寿命を計算すると、26歳となる。縄文時代の寿命はおよそ31歳で、計算とほぼ一致していた。しかし時代が進むにつれ伸び続け、江戸時代に45歳、終戦直後で50歳、そして現代では80歳を越えた。
このように現代人の寿命が急速に伸びたのはなぜか。それは、安定した食糧供給、安全で清潔な都市づくり、進歩した医療によるものだ。そしてこれは全て、たくさんのエネルギーを使うことで成り立っている。事実、寿命の伸びとエネルギー消費量の伸びには関連がある。次世代のために残されるべきエネルギーで、ヒトは「老いの時間」を獲得したといって過言でない。
こうして獲得した「老いの時間」だが、急に獲得したために、体も心もまだそれに対応しきれていない。そのために、高年齢化に伴いガンや生活習慣病等の弊害が生じてきた。著者はそう考える。
本書中で著者は、「老いの時間」を有効活用するよう勧めている。「老いの時間」を使って、子どもたちの教育や同世代の介護などで社会に貢献することもそのひとつだ。そうでなければ、長生きのために投じられたエネルギーが無駄となり、まさしく「長生きが地球を滅ぼす」ことになってしまう。
このように本書では、まずサイズの生物学と、それから発展した時間とエネルギーの関係が述べられる。その後、上に例をあげた高齢化の問題をはじめ、現代社会が抱える環境問題に触れる。そして、サイズの生物学に基づいて「生きるペース」や「時間」の見方を改めることが解決への一歩だ、という新たな見解が与えられる。
残念なのは、タイトル「長生きは地球を滅ぼす」に代表される本書中の主張が、現段階で科学的に裏づけられたものばかりではなく、推論も多く含まれる点だ。しかし、これまで考えもしなかった角度から、時間について考えるきっかけを与えてくれることは間違いない。科学を身近で魅力的なものとして伝えようとする著者の試みは見事に達せられている。 本書は、『時間』(NHK出版)の新装版である。これを読んで、ふだんあまり意識していない「時間」について、ちょっと考えてみませんか。
安西みゆき(2007年度CoSTEP本科生,千歳市)