実践+発信

「デザインというプロセスを通した科学コミュニケーション」67日大津珠子先生の講義レポート

2014.6.14

「グラフィックデザインとは、情報の質を視覚的にコントロールすることなのです。」2005年CoSTEP立ち上げから活躍されてきた大津珠子先生。これまでCoSTEPが実践してきた各種ワークショップ、サイエンス・カフェ札幌の広報を事例に、デザインの基本的な考え方やスキルについてお話しされました。

どれくらいの国民が科学的なニュースに関心があるのでしょう

CoSTEPの活動の背景には科学技術基本計画があります。平成7年に施行された「科学技術基本法」は我が国の科学技術振興を推進していく上でバックボーンとして位置づけられる法律で、この法律に基づいて、科学技術基本計画が5年ごとに見直され策定されてきました。現在はその第4期です。その基本方針には「社会とともに創り進める政策の実現」が明記されています。国家予算約96兆円のうち、科学技術関連予算はおよそ5兆円。この金額からも科学技術に対する国民の理解と支持を得る必要があるのではないでしょうか、と大津先生は指摘しました。

一方で、国民の多くが科学的発見などのニュースに関心を持っているわけではありません。このような背景を認識した上で、科学技術コミュニケーターは活動しなければなりません。ある科学技術の成果が世の中に広く知れ渡ったり、サイエンスカフェに多くの市民が集まり議論を重ねたり、環境問題に関心をもってもらうにはどうしたら良いのでしょう。

科学技術コミュニケーションとグラフィックデザイン

科学技術コミュニケーターが扱うものは情報の質です。情報にはケ性(機能的で間違いをさせないデザイン)とハレ性(記号的で人を喜ばせるデザイン)があります。グラフィックデザインとは、言葉では表現しきれない情報を美しくコンパクトにまとめて人に伝えることで、情報の質を視覚的にコントロールすることなのです。

グラフィックデザインを構成する5つの要素

これまで受講生が取り組んできたポスターや、大津先生の仕事をスクリーンに映しながら、デザインに込められたメッセージや、完成するまでのストーリーを解説しました。

大津先生がグラフィックデザインを扱う上で大切にしていること。それは5つの"S"です。Simplicity は一瞬で何を伝えたいかわかるように余計な情報を削って、コンセプトを的確に伝えることです。次に、Style は、文字組や、書体、色彩などのデザインのルールです。Sensibility はセンスの話ではなく、扱おうとしている題材や関係する分野に対して社会がどのように感じ、何を求めているのかを汲み取る感受性のことです。そして、Surprise は、受け手にとって非日常の感覚を演出することです。このことで、人々の目にとびこんで魅了することができます。最後に、Sympathy は究極の理想です。求めるべき題材、見る人の共感を得るためには誠意を持って取り組むことが大切なのです。

デザインにとって大切なこと

最後に「ピッツァ・マルゲリータ」について紹介されました。このピッツァは、イタリア王妃「マルゲリータ」の名前がつけられています。大津先生が大学生の頃、デザインの授業で知った忘れることができないエピソードだといいます。

 

科学技術コミュニケーターにとって、グラフィックデザインは情報の質を視覚的にコントロールする心強い表現手段です。数々の美しい、そして想いのこもったデザインを生み出されてきた大津先生の講義は、とても新鮮で、発見の多い時間でした。